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戦え、崩陣拳!  作者: 新免ムニムニ斎筆達/岳兎佐助
第二章 ボーイミーツガール編
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第九話 お食事会

 ――数分後。


「いやぁ、先ほどは興奮して済まなかった!」 


 クロスの掛かった縦長のテーブルの奥に座る、壮年の男性が苦笑混じりにそう頭を下げた。


 その隣に控える執事服の男――夏臨玉も神妙にこうべを垂れた。


 現在、要は倉橋家二階のダイニングルームにいた。広々とした床には赤いカーペットが敷き詰められており、高くとられた天井にはシャンデリアのような派手な照明器具がぶら下がっている。


「では、君は別に菊子の恋人でも恋人候補でも恋人候補候補でもなく、ただ臨玉の使う武術が見たいがために来たに過ぎないのだね? そうなのだね――工藤要くん?」

「は、はい。その通りです。はい」

 

 念を押すかのような勢いで訊いてくる壮年の男性の迫力に圧され、テーブルの左側に座る要は緊張気味にこくこくと首を縦に振る。


 先ほど階段でも会ったが、どうやら彼は菊子の父親であるらしい。

 名を、倉橋菊之丞(きくのじょう)

 獅子のたてがみのように後ろへ流れた髪に、歴戦の武人を思わせる厳つい面構え。背が高くがっちりとした堂々たる体格は、グレーの上品なスーツに包まれている。

 倉橋インダストリーの社長であるらしいが、要の目には彼は社長というより王様のように見えなくもなかった。そんな雰囲気があった。

 

「そ、そうだよお父さん。恋人だなんて、そんな……」


 自分の隣に座る菊子が、その真っ白な頬を桜色に染めてうつむく。


 それを聞いて、菊之丞と臨玉はホッと胸を撫で下ろした。


 どうやら菊之丞は、世間で言うところの「親バカ」に属するらしい。


 臨玉も、七年も前から菊子の傍に仕えていたため、彼女を娘か妹のように可愛く思っているそうだ。


「――そうですよ、二人とも。いくらなんでも「娘が連れてくる男の子イコール彼氏」という発想は、いささか短絡的だと思います。今は「友チョコ」なるものが流行る時代ですのよ?」


 それらを教えてくれた人が、さらにそうやんわりと突っ込んだ。


 要と菊子の向かい側の席に座る、美しい女性だった。


 倉橋京子(きょうこ)。菊子の母親だ。

 菊子にも遺伝したであろう、艶やかでまとまりのある長い黒髪。首元に花のビーズ刺繍が施されたウールのチュニックと、膝の下まで伸びる長いスカートをまとうのはほっそりとした肢体。だが出る所はしっかり出ており、チュニックの胸部が豊かに膨らみを見せている。

 とても高校生の子供を持つ親とは思えないほど若々しく美人だが、要はすんなりと納得できた。自分にも童顔の母親がいたからだ。


 京子はさらにこう続けた。


「そんなんじゃ――いつか菊子が誰かと結婚することになった時、暴動の一つも起こしそうで心配です」


 ガタタッ――菊之丞と臨玉がテーブルに身を乗り出した。


「結婚だとっ!! そんなことは断じて認めんぞッ!!」 

「そうです奥方様!! ましてや、まだお嬢様は一六歳ですよ!? 法律が許しません!! ギルティです!!」

「あくまでも例えばの話ですよ二人とも? 特に臨玉さん、いつものように冷静に。日本の民法では女性は一六歳なら結婚可能ですよ?」


 懐から竹刀をチラつかせた京子にそう諫められ、二人は神妙に身を引いた。菊之丞はスーツの襟を整え、臨玉は眼鏡のズレを直す。


 こんなか弱そうな女性一人に、大の男二人が手玉に取られている。不思議なパワーバランスだった。


 要は京子の持つ竹刀に思わず目を向ける。それに気づいた京子はややばつが悪そうに竹刀を引っ込め、


「あらやだ、お見苦しい所で見せてごめんなさいね工藤くん。こう見えてわたくし、あなたたちくらいの頃は剣道を嗜んでいたんですよ」

「へぇ、そうなんですか」

「えっと……インターハイ個人戦で準優勝してる時点で嗜むってレベルじゃないと思うよ、お母さん」

「ええ? そんなに凄い選手だったんですかっ?」 

「昔の話ですわよ」


 ふふふ、と口元に手を当てて雅に微笑む京子。その笑い方はどことなく菊子に似ている気がした。


 武道の話をしたことで、要は今回の目的を思い出し、改めて軌道修正する。


「あの……夏臨玉さん、ですよね?」


 要はややためらいがちに臨玉に尋ねた。


「いかにも。僕が夏臨玉だが」

「今日来た理由、さっきも言いましたよね? その…………いいですか?」


 「走雷拳を見せてもらっても……」思わずそれを言いよどんでしまう要。

 

 向こうの勘違いとはいえ、第一印象は決して良いものではなかったのだ。もしかしたら、面の皮が厚いとも取られるかもしれない。


 だが臨玉は、その怜悧な顔を穏やかなものにして、


「僕のなんかでよければ構わないよ」

「本当ですか!?」

「ああ。少なくとも「菊子を俺に下さい!!」なんて土下座しに来たわけではないならね」


 菊之丞の眼光がレーザーサイトよろしく要の頬に照射される。


「い、言いませんよそんなことっ!」


 真っ赤になって否定する要。隣の菊子も顔を赤くしてそっぽを向いていた。


「でも、その前に――まずはお昼にしましょうね。冷めないうちに」


 京子はそう言って、テーブルに並べられたものに視線を移した。


 四人の前には、数皿の料理が並んでいた。先ほど、数人の使用人が運んできたものだった。


 広い皿一枚一枚の上には、小ぶりな肉料理や魚料理、パスタなどが美しく盛り付けてある。それらの端に置かれたスープカップには、中心にバジリコの浮いたトマトスープ。


 まるでレストランに出されるような料理がそこには並んでいた。


 要は改めて目を白黒させ、


「その、本当に俺まで一緒でいいんですか?」

「全然いいですわよ。それじゃあ、いただきましょうか」


 京子の言葉とともに、菊之丞も京子も「いただきます」と言い、手を付け始める。


「い、いただきます……」


 要もなんとか言えた。


 左右横並びになった食器の中からフォークを掴み出し、まずはスライスされたローストビーフを一切れ刺して食べようかと思った要。


 だが、フォークとナイフで小さなステーキを綺麗に切り取って食べている倉橋夫妻を見て、要は硬直した。


 ヤバい。こういう時って確かテーブルマナーだか、そういうのが必要なんだっけ?


 隣の菊子を見た。彼女も二人と同じように、ナイフとフォークを慣れた手つきで使い分けて食べている。意外な一面を見たような気がした。


 テーブルマナーの欠片も知らない要は、どうすればいいのかとキョロキョロする。


 すると、そんな心中を見抜いたのか、京子がこちらへ優しく微笑みかけて言った。


「気にしなくてもいいんですよ。自分の食べたいように食べて構いませんわ」


 それを聞いて、隣の菊子の方を見る。彼女もウンウンと頷いていた。


「す、すみません。ありがとうございます」


 軽く会釈し、要は改めてフォークを握って食べ始めた。ローストビーフの一切れを刺し、口へ放り込んだ。


「おいしい!」


 噛んで飲み込んでから、要はそう絶賛した。


 しょっぱすぎない味付けと、程よい固さで噛みやすく…………自分の語彙の乏しさでは上手に表現できないが、とにかく美味しかった。


「ふふふ、お口に合ってよかったわ。男の子なんですから、どんどん召し上がってくださいね」 

「は、はいっ!」

 

 要は元気よく返事をし、なるべく下品に見えないように気を配りながら、自分なりの食べ方で料理を平らげていく。


 どれも頬っぺたが落っこちそうなほど美味しい。かなり幸せかも。


 そんな風にリッチな料理を堪能していると、食事をしている菊之丞のそばに相変わらず直立したままの臨玉の姿が目に映った。


 要はふと気になり、臨玉に訊いた。


「夏さんは食べないんですか?」

「「私」は使用人の身。立場をわきまえておりますゆえ」


 さっきまでとは違うフォーマルな言葉遣いで答えた臨玉に、菊之丞が言った。


「毎度言うが、そんな遠慮することはないのだぞ臨玉。お前はもう我々の家族も同然。一口くらいパクッとどうだ?」

「いえ旦那様、普段から十分馴れ馴れしくさせて頂いておりますので、せめてここばかりはけじめをつけさせてください」

「融通が効かんなぁ」


 苦笑する菊之丞。


 そのような感じで昼食を楽しんでいた時だった。


「あの、工藤くん……」


 隣から耳に届いた遠慮気味な菊子の声に、要は振り向き、


「ん? どうしたの?」

「その……ほっぺた、パスタのソースついてる」

「え、うそ? どの辺?」

「ちょっと待ってて、今取ってあげるから……」


 そう言って菊子はテーブルの紙ナプキンを取り、それで要の左頬を優しく数回こすってから、


「綺麗になったよ、工藤くんのほっぺ」

「そっか。ありがと倉橋」

「うん。どういたしまして」


 向かい合って笑い合う二人。


「――ひっ!?」 


 だが突然、横合いからドス黒い邪気のようなものの奔流を感じ、要は身をすくませる。


 ゆっくりと首を巡らせると、視線だけで小動物くらいは殺せそうな眼差しでこちらを睨めつける、臨玉と菊之丞の姿。


 え? もしかして今のアウト?

 

 菊之丞はまるで助走をつけるように首を大きく上へ倒すと、右頬からベチャッとパスタに落下する――えっ!?


「お、お父さんっ?」


 びっくりしたように菊子が声を張り上げる。


 菊之丞を顔をゆっくりと上げる。当然ながら、その右頬はパスタのソースがべったりと付いていた。


「菊子ぉ~、お父さんもソースが付いてしまったぁ~~、拭いておくれ~~~」


 その顔に似合わない甘えた声でねだる菊之丞。「あ、旦那様ずるい!」と、隣の臨玉が悔しそうな顔をする。


 いや、付いてしまったって…………どう見てもわざと付けたようにしか見えなかった。


「――あなた? お行儀が悪くてよ?」


 京子がうっすらと微笑む。だがその瞳には氷のような冷気が込められていた。


 それに捉えられた菊之丞は、蛇に睨まれたカエルのように縮こまった。

 

「だ、大丈夫だよお父さん。布巾貰って拭いてあげるから」


 だが菊子のそんな言葉を聞くと一転、翼を生やして天に飛び立たんばかりの至福の表情を浮かべた。





 ちょっと変わってるけど…………面白い家族だった。





 そうして、倉橋一家とのお食事会は過ぎていった。

読んで下さった皆様、ありがとうございます!


やや蛇足っぽく見えるかもしれませんが、今回の話は菊子ちゃん一家のキャラ付けのためにどうしても必要だったので、平にご容赦ください(-_-)


次回はとうとう第三のトンデモ拳法、走雷拳についての話です。

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