第十八話 他流試合
帰りのホームルームを終えた工藤要は、手提げ鞄を片手に昇降口へやって来た。
ビニール製の上履きを下駄箱に収め、取り出した外履きのカンフーシューズをすのこの外へ放る。ツルピカだった入学当初と比べて、靴の表面に少しキズができ始めていた。これから先、このキズはもっと増えるに違いない。
靴を履いて昇降口の扉から外へ出ると、スカイブルーにうっすらとオレンジが混じった夕空が要を待っていた。
少し離れた場所に見えるハードコートでは、テニス部員がリズミカルにラリーを行っている。不器用ゆえに球技系競技すべてが下手くそな要は、その様子を感心した目で見ていた。
要は校門までの道を歩き始め、道中考える。
もうすぐゴールデンウイークが始まる。そしてそれが終わったら、すぐにスポーツテストというものがあるそうだ。
スポーツテストはともかく、ゴールデンウイークは少し楽しみだ。予定の有無にかかわらず、学生ならば休暇と聞いて心躍るものだろう。
何して遊ぼう? いや、休日中の修行はどうするのだろうか。これから易宝の所へ行くわけだが、ついでに聞いてみるのもいいだろう。
――修行。
一瞬足が止まりかけるが、再び歩みを再開させる。
そういえば、自分は何のために修行しているのだろう。
最初に考えていたのは、ケンカに強くなることだった。
だが自分はすでに、この辺りで有名な不良一人に快勝している。
ただ単にケンカで強くなりたいだけならば、もう十分目的の水準に届いているはず。
なら――これ以上強くなって何を望む?
自分の身を守る――これは出来て損はないよな。
大事な人を守る――それもいいな。
誰かに愛されたい――よく分かんない。
正義のために闘う――なんかカッコイイから、それもアリかな。
どの意見も好印象こそ感じても、もし「自分の本当の望みか?」と聞かれたりしたら、自身を持って頷けるか分からないものばかりだった。
他にもいくつか自己問答を行ったが、どれも何か違った。
自分の本当の望みとは、一体なんだろう。
「ケンカで強くなる」という思いを主軸に修行に励んでいたが、それはほぼ達成された。
なら、これからは何を目標に頑張るべきなのだろう。
「……ん?」
校門が見えてきたところで、要は道の脇にいた二人組に思わず目が止まる。
中途半端な染髪にだらしない制服の着こなし。間違えようもない、達彦の手下だ。
だがいつもと違って一人足りず、二人だけだった。
「はぁ!? …………じゃねぇの!? ……赤…………バカか……逃げろ…………っ!!」
二人のうち一人が、携帯電話を耳に当てたまま焦ったように何かを言い募っており、もう片方は青ざめた顔のまま何も言わずに相方をじっと見ている。
要は何があったのか尋ねようかと一瞬思ったが、すぐに我関せずを決める。
一度達彦が休み続けている理由を尋ねたことがあるが「知らねえ」と一蹴された。まともなやり取りを期待できるとも思えない。
要は構わず立ち去ろうとしたが――
「―――鹿賀なんかほっといてズラかれ!! そいつらはマジでシャレにならねぇ!!」
電話をしていた方の手下が発した「鹿賀」という固有名詞に反応して、足がピタリと動きを止めた。
「おいっ、鹿賀がどうしたって!?」
そう声を張り上げて駆け寄った要に、二人はビクッとする。
携帯を持つ方の手下が「いいな? 見つかる前にとっとと逃げろよ?」と念を押すようにマイクへ訴えかけ、電話を切ってから要の方を向き、
「な、なんだよ急によ……?」
「鹿賀がどうのって言ってたよな? あいつが今どうしてるのか、知ってるのか?」
要の問いに、もう片方の手下が覇気のない声で、
「……なんでそんなこと聞くんだよ」
「いいからっ、教えてくれ」
要の頼みに、二人はしばし顔を見合わせる。話していいかどうか、相談しているように見えなくもない。
やがて、携帯を持つ方の手下が口を開いた。
「さっき、仮病でバックれた一人から電話があったんだけどよ…………鹿賀の奴がボコられてんトコ、リアルタイムで見てんだとよ」
「ボコられっ……?」
あまりに予想外な内容に、要は一瞬立ちくらみを覚える。
だがすぐに気を取り直し、非難がましい口調で、
「何やってんだよお前ら!? 助けに行かなくていいのか!?」
「えっ……いや、それは……」
携帯を持つ方の手下が言いよどむ。
その煮え切らない態度に、要はイライラする。
理由は知らないが、達彦がどこかで暴行を受けている。こいつ等のボスである男が。
だというのに、こいつら三人は今何をしている?
現場に一番近い一人は何もせず座視し、ここにいる二人はカカシのようにつっ立っているだけだ。もっと他にやるべきことがあるだろう。
「む、無茶言ってんじゃねえよ」
携帯を持つ方の手下はそう言って、気まずそうに視線をそらす。
「なんだよ無茶って!? お前ら仲間じゃねーのかよ!」
「だって鹿賀をボコってんのは『紅臂会』だぞ? どう考えたって勝ち目ねえよ」
「『紅臂会』?」
記憶のどこかに引っかかる単語だった。
『ホントだって! あいつら絶対『紅臂会』だよ。俺こないだ奴らが「邪威暗斗」の連中と睨み合ってんの見たんだ』
そういえばいつだったか、倉田がそんな話をしていた気がする。
携帯を持つ方の手下が苦虫を噛み潰したような顔で、、
「知らねえのか? この辺で幅利かせてる族だよ。何年か前に突然出てきて、この辺の有力チームを全部ぶっ潰してキングに成り上がった怪物どもだ」
「だ、だったら、なおさら助けがいるんじゃねーのか!? 相手は複数なんだろ!?」
「知らねえよ……どうせあいつがアームズの神経逆なでするような事やらかしたんだろ? 俺らには関係ねえし、そもそも助けに行ったところで鼻クソ程度の役にしか立たねえよ」
もう片方の手下も、その意見にしきりに首肯し同意を見せる。
要は怒りを通り越して呆然とし、そして確信した。してしまった。
こいつらは達彦に対する仲間意識など微塵も持ち合わせてはいない。「早く話を終わりにしてくれ」とばかりの億劫そうな表情が、それを言外に表していた。
――あいつは一人だ。
なら、あいつと分かり合いたいと思った奴が行かないでどうする。
「――教えろ」
要は二人に訊く。
よく聞き取れなかったのか、二人は無反応。
要は今度こそ聞き取れるよう、携帯を持つ方の手下の胸ぐらを掴み、そして再度問うた。
「お前らが行かないなら俺が行く! 鹿賀の居場所を教えろ!」
◆◆◆◆◆◆
「ぐっ…………!」
達彦は旧道の冷たいアスファルトの上でうつ伏せになりながら、小さくうめく。
唾液に鉄の味が混ざっていた。口を切ったせいだ。
体中を硬い物で散々殴られたおかげで、少し動くだけでも大きな痛みが走る。
周囲には武器を持った男たちが、ドーナツのように自分を取り囲んでいた。幾度も抵抗する自分をねじ伏せるために体力を使ったためか、息が少し荒い。
フルフェイスのヘルメットで顔を隠しているが、自分を嘲笑っている顔が容易に想像できる。
――バカにしやがって。
だがそう考えると、少しばかり力が湧いてきた。本当に少しとしか言えないほどだが。
アスファルトに両手を突き、腹筋と腕にありったけの力を込めて立ち上がろうとし始めた。
だが四つん這いにまでなった瞬間、
「ピコピコハンマー!」
男たちの一人がふざけた口調で放った鉄パイプの縦一閃が、達彦の背中に叩き込まれた。
鈍い衝撃が背中を襲い、一瞬息ができなくなる。そして再びアスファルトにベチャッと寝かされ顎を打った。
ゲホゲホ、と咳き込む達彦。
「イエーイ、ハイスコア!」自分を殴りつけた男はガッツポーズで仲間たちにアピールし、ゲラゲラと笑いを取る。
達彦は悔しさと惨めさ、そして全身の痛みで切歯扼腕する。
チクショウ、もう体力が残ってねぇ。頑張れば立つことはできるだろうが、それだけだ。そこから先はロクな抵抗ができそうにない。
なんて自分は無力なんだ。
要には傷一つ付けられずに惨敗、その上こんな連中のいいように遊ばれる。雑魚もいいところだ。
自分を囲う男たちの隙間から見えるのは、自分の腹に蹴りを入れた『紅臂会』のリーダーである優男。
彼は男たちとは離れた所に立っており、何を考えているかうかがい知れぬ無表情でこちらを見ていた。
何見てやがる。
ほら、どうよ? 俺のこのザマは。
実に滑稽だろ? 負け犬に相応しい姿だ。
笑いたきゃ笑えよ。
いっそひっくり返って腹でも見せてやろうか? 達彦の思考は自虐気味だった。
しかし、達彦が腹を見せる展開にはならなかった。
なぜなら。
「―――何やってんだお前ら!」
そんな聞き覚えのある声が、男たちのあさっての方向から響いてきたからだ。
「―――何やってんだお前ら!」
教わった場所へ息を切らせてやって来た要は、ヘルメットを被った男たちの集まりへ向けて大きく怒鳴りつけた。
前方のヘルメット男たちは一斉にこちらを振り返り、訝しげな目で見てきた。
「誰だこのチビ?」「いつの間に後ろにいた?」「シオ高の制服じゃん」「「お前ら」って、俺らのこと?」「ナメられてんのか?」「見せもんじゃねーぞ」「俺らが誰だか知ってんのか」
ヘルメット男たちは集まりを崩し、ぞろぞろと横へバラけていった。
って多っ! 要はあまりの人数の多さに、思わず一歩退いてしまう。
道路の横幅を余裕で塞ぐほどのその人数は、どう考えても二十人は超えている。いや、下手をすると自分のクラス全員の人数とタメを張るかもしれない。
さすがに多勢に無勢だろう。一旦退いて様子を見た方がいいのではないか。要は冷や汗をかきながらそんな考えが浮かぶ。
だが――ヘルメット男たちの後ろでボロ雑巾のように倒れている達彦の姿を見た瞬間、そんな後ろ向きな考えは消え去った。
「――鹿賀っ!」
要は弾かれたように走り出す。ヘルメット男たちを押し退けて、達彦の元へ駆け寄った。
「おいっ! しっかりしろ!」
要はしゃがみ込み、うつ伏せに倒れた達彦の体を揺さぶる。
Tシャツにジャージのズボンという簡単な私服に身を包んだ達彦の姿は、満身創痍と形容するに相応しい状態だった。
服に包まれていない部位には赤紫の打撲痕が幾つも残っており、顔も殴られたのか、口の端と鼻から乾いた血の道が顎に向かって伸びていた。
ひどい怪我だ。
だが、易宝なら治せそうだ。自分の時のように。
易宝のところに連れて行こう。要は行動方針を決めた。
「おまえ…………なんでここに……」
要の姿を捉えた達彦は、目を丸くして、消え入りそうな声でそう言ってきた。
「喋んな。切った口にしみるぞ」
「うるせぇ…………質問に答えろ……」
「今から知り合いの医者のとこに連れていく。質問はそれまでお預けだ」
「バカヤロ……だれがてめぇの施しなんざ…………うっ……!」
達彦は顔を上げて抗議しようとしたが、苦痛に顔を歪めて体勢を崩し、うつ伏せに戻った。どこか痛んだのだろう。
「言わんこっちゃない」
要は苦笑しながら、達彦の肩を持ち上げようとする。
「――無視してんじゃねェよ」
だがその前に、そんな不満げな声と同時に右肩へ何かが添えられる――木刀の剣尖だった。
振り返ると、ヘルメット男の一人が自分の真後ろへ立っていた。木刀の主はこの男だ。
「そのガキは俺らがシメてやってたとこだ。邪魔すっとテメェも殺っちまうぞ」
その男はドスの効いた声で威嚇してきた。ヘルメットで表情が見えない分、なんだか不気味にも思える。
要は右肩の木刀を手で払い立ち上がると、負けじと睨みつけ、
「うっせーよ、どけ」
「ああ!?」
「本当なら鹿賀をこんな目にあわせたお前ら全員ぶっ飛ばしてやりてーけど、師父じゃあるまいし、このアホみたいな数を一人で全部倒せるとも思えない。だから、お前らに求める事は一つだ――どけ」
男がカァン、と木刀をアスファルトに叩きつけ、
「このクサレチビが…………俺らを誰だと思ってやがんだ? 言ってみやがれ」
「さっき聞いた。『紅臂会』。ほら、要望通り言ってやったぞ? とっととそこをどけ、ショッカーA」
男が木刀を両手に持ち、振りかぶった。
「正義マンぶってんじゃねぇーぞこのクソガキャーー!!」
激昂とともに一太刀が「ビュンッ」という力強い音を立てて縦一閃に振り下ろされた。
だが要は素早く体軸をずらし、なんとか木刀をかわす。
生まれて初めての武器攻撃にヒヤッとしながらも、要はそのまま男へ急接近。拳を脇に構えて迅速に腰を落とした。
「――『旋拳』!」
全身の螺旋運動のよって導かれるドリルのごとき正拳が、男の腹部へ抉るように突き刺さる。
「げぇ!!」
男は打たれた所を中心にくの字になって後ろへ吹っ飛び、何人かの仲間を巻き込んで盛大に倒れた。
「テメー!」「この野郎!」「死にてーらしーな!」
仲間をやられたヘルメット男たちが一斉にどよもし、武器を構えて戦闘態勢を取る。
マズイ。やむを得ずとはいえ手を出してしまった。このままだと袋叩きにあう。
目の前に広がる最悪な状況に、要は気休めにしかならないであろう『百戦不殆式』の構えを取った。
「―――ちょっと待った」
だが、不意に耳に入ってきた制止の声とともに、その場にいる全員がピタリと止まり沈黙した。
要は声の聞こえた方向を振り返る。
すると、武器を持ったヘルメット男たちの向こう側に、一人の青年が立っていた。
足の長い細身の体型で、ライダースジャケットとジーンズを綺麗に着こなしている。
男にしては少し長めな髪をポニーテールのように後頭部でまとめており、アイドル並の爽やかで整った顔立ちをしていた。
ヘルメットと武器を装備していないことを抜きにしても、その青年は周りの男たちとは一線を画す存在感を放っていた。
青年は柔和な微笑みを浮かべながら、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。硬そうなロングブーツを履いているのに、足音がほとんどしない。
その青年が近づくと、ヘルメット男たちは慌てて道を開けていった。そんなリアクションを見れば、青年がこのグループの中でどういう存在かは想像に難くない。
やがて青年は、要のすぐ目の前までやって来た。向かい合う形となる。
その顔は相変わらず笑顔。そんな場違いな表情に要は圧力を覚える。
青年は周囲を見回しながら、ヘルメット男たちに呼びかけた。
「お前たち、この子は俺に任せて欲しい」
それに対し、一番近くにいたヘルメット男がためらうような口調で、
「え? でも、竜胆さんが手をわずらわすまでも……」
「いいんだよ。それに俺、この子に興味があるんだ。これは命令。オーケー?」
青年がそう言って気さくに笑いかけると、その男は恐縮したように頷き、その場から下がった。
青年はこちらへ向き直ると、先ほどヘルメット男に向けたのと同じ気さくな笑みを見せて、名乗った。
「初めまして坊や。俺はこの『紅臂会』リーダー、竜胆正貴だ。君の名前は?」
青年――竜胆の質問に、要は鼻を鳴らして吐き捨てるように返した。
「何で教えなきゃなんねーんだよ」
次の瞬間、周囲のヘルメット男たちから大ブーイングが起きる。罵声のほとんどが「テメー竜胆さんにどういう口利いてやがる!」といったニュアンスを秘めていた。
「まあまあ落ち着け」
だが竜胆は気を悪くするどころか、苦笑しながらなだめてすらいる。
「人の名前を聞く時はまず自分から、ってよく言うだろ? 俺は名乗ったんだ。礼を尽くした以上、君も名乗ってくれてもいいと思うんだけどな」
竜胆の最もらしい指摘に、要はぶすっとした顔で、
「……工藤要」
「可愛らしい名前だね」
「ほっとけよ。じゃあ、俺の方からも一つ聞かせろ」
「何だい?」
「……どうして、鹿賀をあんな目にあわせた?」
すると竜胆は笑顔を突然やめ、能面のように表情を消して答えた。
「メンツを守るためだ」
「メンツ……?」
「鹿賀くんっていうのか、彼は。彼は何日か前に、ウチのメンバーの一人に手を出した。顔中の青アザを見てビックリしたよ。メンバーがやられておいて報復の一つもとらないんじゃ、世間や他のチームに甘く見られるだろう? そうしてズルズルと後続を許してしまうわけだ。これは『紅臂会』が、海線境市の泰斗でい続けるための必要悪なんだよ――俺の居場所を守るためにもね」
最後の方はよく聞き取れなかったが、大体の理由は分かった。
こいつらは――ナメられたくないという理由だけで達彦をリンチにかけたのだ。
……ふざけやがって。
「そう怖い顔をしないで欲しいな。可愛らしい顔が台無しだよ。あれだけやったんだ、これ以上彼を痛めつけたりはしないよ――君の対応次第ではね」
「……俺の対応?」
その言葉の意味を理解しかねた要は眉をひそめる。
竜胆は微笑し、片手を仰向けにして問いかけてきた。
「要くん、だったか。君――何か武術をやってるね? さっきの技を見て分かったよ」
「……だったらなんだよ」
「やっぱりそうか! 実は俺もいささか武術を嗜んでいてね。そこで提案なんだが、今ここで他流試合をするっていうのはどうかな」
「ヤダって言ったら?」
「それならそれで構わないよ。ただし――俺の部下全員を倒せるだけの功夫があったらの話だけど」
ヘルメット男たちはへへへ、と笑いながら、持っている武器を手のひらにパシパシと当ててアピールする。
つまり、他流試合に応じなければ、相手は竜胆一人からヘルメット男たち数十人に膨れ上がる上、達彦へのリンチも続行というわけだ。
なんて卑怯な。要は竜胆を責めるように睨みつける。
だが竜胆はどこ吹く風といった感じで、さっきまでの人好きしそうなものとは質の異なる、挑戦的な笑みを浮かべて要に告げた。
「改めて名乗ろう。俺は六合刮脚門の竜胆正貴。工藤要、君に一対一の試合を申し込む。もし応じてくれれば、勝敗にかかわらずこいつらに手は出させない。鹿賀くんにも何もしないと約束しよう。悪くない条件だろう? さぁ、どうする?」
要はしばし考える。
自分は確かに強くなったが、実戦経験も勝利経験も今のところ達彦一人だけだ。
他の相手、ましてや武術家相手に、自分の実力がどこまで通用するだろう?
不安は決して小さくない。
でも――要は達彦に目を向ける。散々殴られてボロボロな状態で、今なお横たわっている。
その姿を、要は去年傷だらけだった自分の姿と重ねた。
そして、そんな自分を、易宝は助けてくれた。
俺は、そんな人の弟子になったんだ。
なら自分も――同じ選択をしよう。
「――いいだろう」
要は竜胆を真っ直ぐ見つめ、強い意志を持って返答した。
それを聞いた竜胆は、嬉しさと闘志が混ざったような笑顔を見せる。
「や……やめろバカ…………頼んでねぇぞ……余計なこと……すんな…………」
だが一人だけ、その決定に異を唱える者がいた。達彦だ。
「うっさい。これは俺が勝手にやることだ。ケガ人は大人しくしてろ」
要は腰に手を当て、達彦の言葉を一蹴する。
「お前たち、俺が勝っても負けても、この子たちには手を出すんじゃないぞ。いいな?」
ヘルメット男たちはヤクザの子分よろしく「ヘイッ」と一斉に頷き、互いに向かい合う要と竜胆を中心に距離を取った。広い空間が出来上がる。
要は竜胆とその周囲を見据え、半身となる。片腕を前に伸ばし、その肘の真下に拳を添えるように構えた――『百戦不殆式』。
竜胆も半身の体勢をとり、正中線を守るように両拳を構える。
「――崩陣拳、工藤要」
「――六合刮脚、竜胆正貴」
互いに名乗りを終える。
そして――死闘は始まった。
読んで下さった皆様、ありがとうございます!
やっと……やっと他のトンデモ拳法が出せるぞぉーー!(歓喜)
「トンデモ拳法多数」なるタグを付けておきながら、一つしか出せてませんでした。
「タグ詐欺じゃね?」と思った皆様、マジですいません……