第0章 開幕
偶然が悲劇を生むことは少なくない。
第0章 開幕
それは、ある夏の日のことだった。
青く、空全体が光っているような日だった。
湿気のある暑さでありながら、どこか自由な風が吹いていた。
人は
黒いアスファルトに白く線が引かれている横断歩道もまた眩しく光っていた。その信号を待つ『CPS』は、実のところ何も考えていなかった。まだ10歳の頃だ。小学校に通っている彼女は優等生で、いつも魔法のことを考えていそうなものだがそんなことはない。天才とは、普段何も考えていない人である。
トラックでなくとも
そうだ。その通り。『CPS』は天才だ。才能がある。魔法に関する才能。勉強する才能。努力する才能――正直言って、努力することは才能である。どうあがいても努力できない、努力することがどうしてもできない人間もいる。
車に
しかし『CPS』にはそれができた。努力しようとして、できた人間だ。彼女は自分の力を伸ばすべきときに伸ばすことができた。あがけば、何かを掴むことができる。彼女はとてつもなく、優れた人間であった。やろうと思えばやれてしまうというのは、まるで神のようで、それではつまらないというような、そんな考え方も、もちろん世の中の人間はよく言うかもしれない。
轢かれれば
ただ皆さん、よく考えてほしい。何でもできる人間は、全ての楽しみを得ることができるうえ、全ての苦しみも得ることができるのだ。楽しみだけでなく、苦しみも? なんだそれは。普通の人間と変わらないじゃないか。ただそれが意図的か、そうでないか。それだけの違いであり、意図的に幸福チケットを手に入れることのできる人間が、幸福でないわけがないのだ――
死ぬ。
青信号を見た『CPS』は一歩を踏み出し、もう一歩を踏み出したとき、何も考えず右を見た。もう遅かった。
眼前50センチの鉄の塊。
腰の辺りに向かってくるその車。
『CPS』は、車に轢かれ――
「うおおぉぉぉぉぉぉ!」
『CPS』は突き飛ばされた。
始めに申し上げておこう。
これは、甘く、酸っぱい、実った恋の――お話だ。
第0章・終
第1章へ続く