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白熱距離

登場人物

・ギフト(義普登志彦) … 主人公。12歳。目が覚めたら100年近い時間が過ぎていた。空想カタパルトで、手に届く範囲の物体を飛ばすことが出来る。

・みっちゃん … 目が覚めたギフトの隣にいた制服を着た少女。大変力が強く、おっぱいが大きい。

・空吾くん … 12歳。ギフトやみっちゃんを猿と呼んで見下している。ショットガンを装備している。

・先生 … フレームの細い眼鏡をかけたスーツの男。空吾くんの面倒役で、話出すと長い。喫煙家。

 もう樹を飛ばすほどの余裕はなかった。自分よりも軽いものを後一回、飛ばせてやっとだ。

 空悟くんだって疲れているはずなのだが、そんな様子は確認できない。


 二度目の爆発が起こる。

 刺さるような光が起こり、勢いを殺した爆風が頬を撫でた。位置はまだ遠いのに、ふと焦りと諦めが同時にやってくる。


 いいや――頭を振る。

 何か方法はあるはずだ。生き延びさえすれば、それでいい。


「お前が力を使えないのは分かってる」


 空悟くんだ。


「あんなデカいの二度も飛ばしたんだ、誰にでも分かるさ。俺の方は燃料を燃やしてるだけだから大して力は使ってない。あと一〇〇回は出来る。本当だぞ――少し考える時間をやる。今大人しく出てくるなら、ぎりぎり許してやる」


 一〇〇回なんてはったりだと分かる。弾がそんなにあるはずない。

 でも負担が少ないのは本当だろう。空想カタパルトを使っていて、どうすれば楽か分かるからだ。きっと空悟くんはマッチを擦るくらいの労力しか使っていない。


 遠くでぼんやりした明かりが揺れている。火がここまで広がるのも時間の問題だ。


「ギフト」


 みっちゃんが囁く。回復が進み、顔の皮膚はつるりとしたものになっていた。


「さっき檻を跳ばしたみたいに、わたしごと遠くに跳べない?」

「ごめん、力が残ってない」

「それなら、わたしに何かできることはない?」

「正直、もう手がない」


 みっちゃんの脚は失われたままだ。あったとしても、銃声の聞こえない爆発に対応できない。不意に燃え盛る爆炎は「聞いてから回避する」ことを不可能にしていた。


「うでは、まだあるのにな」


 みっちゃんはすらりとした自分の腕を眺めた。僕を檻ごと軽々持ち上げることのできる腕だが、この状況を脱するには不十分だと思われた。

 みっちゃんはすっかり落ち込んで「ごめんね」と言った。


「わたしがお願いなんてしたから、こんなことになっちゃったね」

「そんなことないよ。あんな所に閉じこめられたままなんて、やっぱり嫌だから」

「おい、そろそろ答えを聞かせてもらおうか」


 空悟くんの声が、僕たちに終わりを告げる。

 色んな後悔が、フラッシュのように瞬いた。水面のように静かで、一つ一つがくっきりと浮かんで消えた。そのほとんどは、隣にみっちゃんがいた。

 みっちゃんを見る。ついさっきまでぼろぼろだった皮膚は綺麗に再生していて、小首を傾げる様子には脚を失った痛みなど感じさせない。


「あの人は元気だね。ギフトとおなじくらいなのに」

「僕と違って力の使い方を訓練しているだろうからね。先生はまだまだだって感じで言ってたけど」


 女の子みたいな顔をしているのに、なんてタフなんだろう。

 ふと、疲れ切った頭が引っ張られるように飛び起きた。

 何に引っ張られたのか、それはぼんやりとしている。でも、とても大切なことだと思った。


「十秒以内に姿を現せ。でないと、爆破を再開する」


 空悟くんからの最後通告が捜し物の輪郭をさらに曖昧なものにさせた。

 何だった。僕はついさっき、なんて言った。

 先生はまだまだだって--。


「みっちゃん!」

「どうしたの?」

「僕を空悟くんに向けて投げて!」


「そんなの、あぶないよ」

「あと五秒!」空悟くんの声がした。

「空悟くんも、疲れてるんだ。それも、僕と同じくらい。みっちゃんには位置が正確に分かるよね」


「茂みの向こう側に五十歩くらいいったところ」

「登志彦! いい加減にしろよ!」

「みっちゃん、やって!」


 みっちゃんは仰向けになると目をきつく閉じて、僕の腰をしっかり掴んだ。

 同時に僕は空悟くんがいる方向へ、剥がれかけた木の幹を飛ばした。

 今の僕にできる、ぎりぎりの発射重量。ちょうど小石をパチンコで撃ち出すような、頼りないイメージ。


「この馬鹿野郎!」


 空悟くんの声に併せ銃声がし、小さな爆発が起きる。最後のショットガン。今ので装填された弾が吐き出された。


「投げて!」


 真横に落下するように、空吾くんへと接近する。焦げた臭いとつんと鼻を刺激する臭い。熱風を抜けると、茂みの向こうで彼を見た。慌ててショットガンの弾を装填しようとしているところだ。


 しかし彼の細い腕に、それを行う力は残っていなかった。

 右手を強く握り締める。振りかぶる必要も無い。投げられた速度をぶつけることで、充分な拳をお見舞いしてやれる。


 空悟くんは肉食獣のような笑みを浮かべ、僕の拳をそのまま、右頬で受け止めた。

 僕は地面で一度バウンドして、転がりながら速度を殺した。全身から土や緑の濃いにおいがしたが、空悟くんを見ると、仰向けに倒れたまま、動かなかった。


 徐々に視界が暗転していく。

 視界に映ったのは、死神を思わせる男がタバコに火を点ける姿だった。

次回更新予定は5月26日20時頃です。

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