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超種

登場人物

・ギフト(義普登志彦) … 主人公。12歳。目が覚めたら100年近い時間が過ぎていた。空想カタパルトで、手に届く範囲の物体を飛ばすことが出来る。

・みっちゃん … 目が覚めたギフトの隣にいた制服を着た少女。大変力が強く、おっぱいが大きい。

・空吾くん … 12歳。ギフトやみっちゃんを猿と呼んで見下している。ショットガンを装備している。

・先生 … フレームの細い眼鏡をかけたスーツの男。空吾くんの面倒役で、話出すと長い。喫煙家。

「ほら、起きなさい」


 目を開くと、お母さんが僕から布団を奪っていた。

 はっきりしない頭で辺りを見回す。窓から太陽の光が降り注いで、舞うほこりをきらきらと輝かせている。遠くから小さな子どもの楽しげな歓声が聴こえ、よく見知ったカーペットの上で、目覚まし時計が哀れにも電池を吐き出して転がっていた。


「休みだからって、いつまでも寝てるんじゃありません」

「今日、休みなの?」


 お母さんは大仰にため息をついた。


「休みたいって、あんたが言ったんでしょう。まだ寝ぼけてるのね。まだ調子悪いんでしょう? お粥用意してあるから、起きていらっしゃい」


 僕が身体を起こすのを確認すると「まったく」と部屋を出る。


「僕、病気だったよね」


 その背中が一瞬張ったように見えた。ゆっくり振り向くと「そうよ」と表情を柔らかくする。


「だから、治せる時代になるまで長い眠りにつくの。あんたを危ないところになんて、やらないからね」

お母さんは僕を包むように抱きしめた。胸の中にあったつかえが、水に溶けるように消失する。それから頬に手が当てられると、ゆっくりと振りかぶって、思い切りひっぱたいてこう言った。





「おい起きろ」


 続けざま目が覚めるという不思議な体験に頭が付いて行けずにいると、改

まってぴしゃりと頬をやられた。


「あれ……」

「よし、無事だな」


 空吾くんは小さく息を吐く。

 僕は地面の上に手足を放り出していた。あちこちが擦りむいているが、大きな怪我は無いようだ。

 そうだ、みっちゃんは。


「痛っ」


 上半身を勢い良く起こすと、鈍い痛みが頭に走った。


「まだ動くな。さっきのショックで、檻に頭を強く打ち付けてる」


 空吾くんは空気の抜けたゴムボートのようなものを畳んでいる。彼を境に、地面がえぐれ、爆発による白化が起きていた。目に映るほとんどの草木は焦げている。


「緊急用のバルーン」


 空吾くんが誰ともなしに言う。


「一回使ったらもう駄目だな。捨てていこう」


 お役御免になったそれが、僕らを炎から守ってくれたらしかった。


「どうして僕を、檻から出したんだ」


 みっちゃんのことは聞けなかった。すっかり焦げ付いた景色に動くものはなかった。

 じろりと視線が僕に刺さる。いよいよ僕も、殺されてしまう。


 座ったまま後ずさると、背中にしっかりとした存在がぶつかった。葉を焦がした木だった。


「あれを見ろ」


 空吾くんの示す先に枝が転がっていた。三メートルくらい離れたそれは、焦げているだけのただの枝に見える。

 ぱきん、と鳴った。それから煙が上がり、一気に火だるまになる。


「僕が燃やした」


 事もなさげに言いながら、ポケットから弾薬を取り出した。みっちゃんを飲み込んだ炎を生む弾薬だ。


「これは油脂焼夷弾。液体燃料が入ってて、僕のパイロキネシスで爆発させて使う」

「パイロキネシス……?」


 空吾くんは手の中で弾薬をもてあそぶ。


「僕は念じることで物を燃やすことが出来るんだよ。もっとも、生き物は水分が多くて発火出来ないから、これ頼りだ」

「それって」


 空吾くんはにっと笑った。


「お前もさっき、力を使ったろ」

「空想カタパルトのこと?」

「名前なんて付けてるのかよ」


 空吾くんは馬鹿にするようにげらげら笑って「だっせえ」と締めくくった。


「さっき、先生が言ってたろ。昔、第二次カンブリア爆発って呼ばれる病気の流行があったんだ。感染した人のほとんどは死んで、化け物になった。じゃあさ、死ななかった人はどうなったと思う?」


 僕は唾を飲み込んだ。考えもしなかったことだった。


「脳機能を極限まで使えるようになったんだ。思考を現実に転じる力、神の力。化け物を変種と呼ぶなら、僕らは超種と呼ぶべきだ! 死んだやつらは人を襲う、力だけの化け物さ。でも僕らは違う。やつらみたいに不死身でもないし怪力もない。けどやつらを一掃できる。普通の人達を守れる。正義のヒーローなんだ!」


 空吾くんは興奮していく自分に気づき、一度咳払いをした。


「子供っぽいって、笑うか?」

「いや……」


 彼は猛獣みたいな笑顔を見せた。


「お前も僕らの仲間だ。僕らっていうのは、先生もそうだからさ。テレパスで人に頭痛を与える、変な力だけど。僕が言うこと聞かないと、ちょくちょくやってくるんだぜ」


 そうそう、と付け加える。


「さっき先生から無線で連絡があった。屋敷の近くにぶっ飛ばされたんで中を散策してるらしいが、そこでいくつか空の冷凍睡眠装置を見つけたらしい。お前は多分、そこで長い間眠ってたんだ。先生が言うには、冷凍食品室じゃないかって」

「食品室」


 口に出してから、分かってしまった。考えるのを止めても、空吾くんが先を言ってしまう。


「そんなの決まってるだろ。あの屋敷は、化け物の飼育小屋だったのさ。かじられる前に逃げられて良かったじゃないか。先生が言ってたぜ、giftって単語には『贄』って意味があって――まあいいや。とにかくもう大丈夫だから、これから僕と一緒に先生の所へ行こう」


「一緒に? 僕が?」

「そうだよ。さっきも言った通り、お前は仲間なんだ。名前、なんて言ったっけ。ギフトじゃないんだろ」

「……義普登志彦」

「そっか、じゃあ登志彦、僕のことは空吾って呼んでいい」


 僕に手を差し伸べる。

 その手はさっきまで銃を握っていて、みっちゃんに火を放ったものだ。

 それなのに、ああ、僕は理屈ではない安堵をほのかに感じている。


 僕の両親は当然、死んでしまっているだろう。

 白髪のお医者さんは言うまでもない。

 友だちはみんなお年寄りになっているはずだ。


 そんな僕に、仲間と呼んでくれる人がいる。

 手を伸ばせ、と頭の中で誰かが言う。それ以外選択肢がないのだと、頭で分かる。

次回更新は30日18時頃の予定です。

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