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まっとうなコメディー

下手な鉄砲

作者: 腹黒ツバメ



〈下手な鉄砲〉



 ある日、担任教師が見慣れない男子を引き連れて教壇に立った。

「えー、今日から転入してきた小笠原だ。席は……田代の隣が空いてるな」

「よろしく、田代くん」「ああよろしく」

 そうして、俺は転入生小笠原と隣の席になった。



 小笠原が来て一週間、奴はすっかりクラスに馴染んでいた。生活態度を見るかぎり、可も不可もなくのごく普通の男子だ。

 しかしある朝、小笠原が妙なことをひとり呟いていた。

「頃合いか……」

「どうした?」

「おう、田代か。実はそろそろ恋人を作ろうと思ってな」

「は?」

「この一週間はクラスに俺を印象づけるための下地だった。今日の昼休み、俺は告白する! 片っ端に!」

「そ、そうか……頑張れ」

 内心どん引く俺。

「待っていろ女子、俺が籠絡してやろう!」



 そして昼休み。

「というわけで、ターゲットはあの女だ」

「佐山さんか? またなんで彼女を」

 小笠原が指差す彼女は、耳にピアス、西洋人形よりバカ長い睫毛、ゆるふわなんとかミディアム、いわゆる“ギャル系”女子だった。

「わかってないな、厚化粧の女は押しに弱くてちょろいと相場が決まっているんだ」

「今から告白する男の言葉とは思えないな」

「とにかく見ていろ! おまえは歴史的瞬間に立ち会うことになる!」

 意味不明な台詞を吐いて、小笠原は佐山さんに歩み寄った。


「ヘイ、サッチー。早速だけど俺とラブラブにならないかベイベー」

「はぁ? 小笠原だっけ、いきなりなに言ってんの?」

「照れんなよ、黙って俺の女になりな。絶対幸せにしてやるから」

「え……アンタってそんなキャラだった……? キモッ」


 カツカツと靴音を鳴らしながら戻ってくる小笠原。

「ふぅ、残念ながら奴にはもうカレシがいるな。フリーだったら確実に落としていたんだが」

「いや、それは違うと思う」

「まあ、あんな顔面武装した女では俺に釣り合わないと証明されたまでだ」

「……ぷっ、顔面武装」

 不覚にも笑いのツボに入ってしまった。ふたり揃って無礼千万だ。



「気を取り直して、今度は彼女だ」

「まだ続けるのか」

「当然だ」

 次に小笠原が目をつけたのは、教室の片隅で文庫本に目を落とす少女だった。黒髪ロングに折り目正しい制服の着こなし、名前を三浦さんという。

「さっきと真逆のタイプだな」

「やはり知性的な女の方が俺に相応しい。では早速いってくるぞ!」

「……ほどほどにな」


「やあ三浦さん、月が綺麗だね」

「え? 今は昼――」

「僕は太陽できみが月、煌めく星屑が大気圏突入して燃え盛るような熱く激しい日々を、ともに過ごしていこう」

「えーと、あの……言っている意味が」


 カツカツと靴音を鳴らしながら戻ってくる小笠原。

「どうやら彼女はまだ、俺の天才的な文学的センスを理解できるレベルに達していないようだ」

「いや、それは違うと思う」

「む? おまえは漱石の逸話を知らんのか」

「そういう問題でもなく」

 隕石は大概燃え尽きるだろうが。



 俺たちは廊下に出た。二度も立て続けに告白(そして玉砕)したため、好奇の視線が痛いのだ。

「推測するに“小笠原は普通の人間だ”という先入観が告白成功の邪魔をしているのではないか。隣のクラスで作戦続行するぞ」

 一週間の下地とやらが無残に崩れ落ちた瞬間である。



「よし、次の狙いはあの女だ」

「ふむ、成田さんか」

 視線の先で、高い位置に結ったツインテールが揺れている。

 子供っぽい容姿と言動で他クラスにまで名前を轟かす、校内ではちょっとした有名人だ。愛され小動物系というらしい――俺にはよくわからないが。

「しかし、いくらなんでも高望みじゃないか? すでに二回連続でフラれていることを自覚した方がいい」

「任せろ、勝算はある」

 ニヒルに笑って、小笠原は駆け足で彼女に接近した。


「なっちゃん! あ~そび~ましょ~」

「うわぁ! きゅ、急になに⁉」

「おままごとにするぅ? それともオニごっこぉ? お人形あそびがいいかなぁ~?」

「ば……馬鹿にしてんのかあぁぁぁっ!」


 ガツガツと靴音を鳴らしながら戻ってくる小笠原。ご立腹のようだ。

「いきなり平手打ちは酷いと思わないか」

「いや、それは違うとおも――」

「すぐさま暴力に訴えるなんてガキの証拠だ! 大人をコケにしやがって!」

「それは本気で言っているのか?」



「仕方あるまい、確実に落とせそうな相手を選ぶぞ。もうあの地味な女でいい」

「なんて失礼な奴なんだ」

 ツッコみながら相手を見ると、確かにこれといった特徴はない平凡な女子生徒だ。これまでの三人が個性派すぎたのかもしれない。というか、

「なんだ、相沢さんじゃないか」

「知り合いなのか?」

「ああ、去年同じクラスだった」

「なるほど……丁度いい」


「やあ! 俺、田代くんの友達で小笠原って言うんだ! よろしく」

「た、田代くんの……?」

「ところで、よかったら俺とつきあってくれないかな?」

「え! え、えっと……」

 直球すぎる小笠原の告白に戸惑う相沢さんが、後ろで観察する俺をちらりと見た。なんだろうと首を傾げると、


「ごめんなさい! あたし――田代くんが好きなんですっ」

「「えぇ⁉」」

 驚愕の声が小笠原とハモる。そして、気づけば俺は叫んでいた。


「――俺もっ! 好きです! つきあってください!」

「は、はい是非!」

 答えを聞いた瞬間、教室の風景が美しい教会へと姿を変えていった。祝福の鐘が鳴り響く。リーンゴーン。

 俺は彼女に駆け寄り、その手をぎゅっと握り締めた。柔らかい手のひらは、まさに幸せの感触だった。



「お、おぉぉ……」

 背後で小笠原が不気味に呻いている。なんだ、いいところなのに。

「どうした、平気か?」

「田代くん、彼ってお友達? 様子が変だけど大丈夫なの?」

「よくわからない」

 小笠原はきっと顔を上げると、盛大に唾を吐き出して悲痛な叫び声を上げた。


「おまえなんかもう友達じゃないやい! バーカバーカ!」


 そして小笠原は踵を返し、人間離れした速度で走り去ってしまった。午後の授業にもいなかったので先生に訊いてみたら、きっちり早退届を提出していた。

「いったいなんなんだ、アイツは……」



 そして翌朝、教室に入った俺に、小笠原は土下座してモテる秘訣を教えろとせがんできた。知らんがな。







 読んでいただきありがとうございます!


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言いますが、無理なものは無理です。上手になれるよう練習しましょう。


 ところで、みなさんの中で異性に人気のある方がいましたら、是非モテる秘訣を教えてください! バーカバーカ!



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