大人と呼ばれている人達の中に、はたして大人はどのくらいいるんだ
「大人になれ!!」
昨日親父に言われた。大人になれって言われても。
「一体大人ってなんなんだよチキショー……」
ふてくされてある家の前を歩いていると。
「んもう!!またこんなに汚して!!何回言ったらわかるの!!」
なんだ?
小さな女の子が母親に玄関前で怒られている。
ん?あの子は……。おいおい、服汚しただけだぞ。それをなんだその言い様は。しかも服を汚したって言ってもそれはさっき車が通ったときに水溜りで。
「ご、ごめんなさい・・・」
あ〜あ、あんなに落ち込んじゃって。そりゃそうだ。さっきまではきれいだったんだからな。ちゃんと守ってたんだもんな。
「ホント考えられない!!最低!!」
おい。
「何回も言わせないでよ!!お母さんは今忙しいの!!そんなにお母さんを困らせて楽しい!?」
おいおい!!
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!もうしないから!!」
「またそうやって思ってもいないことを言って!!何度あなたはしないって言った!?もう知らない!!!」
バタンッ!!
「ううううえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ん゛!!!!お゛がぁあ゛ざん゛!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!ヒックっ!!オ゛エ゛ェ!!お゛がぁあ゛ざん゛!!!」
中の綿が飛び出したぬいぐるみをこれ以上綿が飛び出ないようにやさしく抱きしめた。
「ごめんな……ごめんな……。子供を泣かす大人なんて生きてちゃいけないよな……。ごめんな」
声を出しちゃいけないと思えば思うほどあごが痙攣を起こした。
ガチャ
「ち、ちょっと誰ですかあなたは!!」
引き離された。
「こんなに泣いて、怖かったでしょ?一体なんなんですかあなたは!!こんなに泣いてるじゃないの!!どうしてくれるのよ!!え!?なんか言ったらどうなのよ!!ちょっと!!!!」
「てめえが泣かしたんだろうがあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悲痛な叫びだった。
「この子はな、さっき車に泥を跳ねられて汚れたんだ!!!!汚したくて汚したわけじゃねえんだよ!!!!」
「だったらなんで言わないの!?まったくこの子は!!ホントにダメなんだから!!」
「謝れよ!!!!ふざけんじゃねえぞ!!!一体どれだけ傷つければ気が済むんだ!!てめえは一体何様のつもりだ!?」
「私はこの子の母親に決まってるじゃないの!!」
「親だったら子供を泣かしていいと思ってのかよ!!!」
「そんなこと言ったって、私は子のこのことを思って」
「全部自分のためじゃねえかよ!!疲れてるとか忙しいとかふざけたいいわけ使いやがって!!ただ自分が楽してえだけじゃねえかよ!!!」
「だってしょうがないじゃないの!!!今私がどんなに苦しんでるのか知らないくせに!!!」
「知るかよそんなこと!!!!あんたが今どんな状況かなんてどうでもいいんだよ!!いま一番大事なのは、この子が泣いてるってことじゃねえのかよ!!!」
「うぇえええええん!!!!え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っえ゛っえ゛!!!!ああああああああああう!!!」
「ああ、泣かないで。泣かないで。お願いだから」
泣きそうな子をしながら子供を抱きしめ、頭をさする。
「私は、アナタのために……」
「まだわかってねえのかよ」
まったく、あきれてくる。
「全部自分のためだろうが。アナタのためってことは、私のためにってことだろうが。自分の理想を無理矢理押し付けやがって。子供は自分の分身なんかじゃねえ。操り人形なんかじゃねえ。宇宙に一人の人間なんだ!!てめえのプラモデルじゃねえんだ!!勝手に好き放題くっ付けやがって!!親ってのは、材料を集めるだけでいいんだよ!!それをくっつけるかどうかは本人の意思なんだ!!」
二人はもう俺の話など聞いていない。
綿の飛び出した人形が、互いの綿を飛び出さないように押さえつけているように抱き合っていた。
俺は涙をぬぐわずに歩きはじめる。
涙を拭いたら泣いていると認めてしまうから。
「なんなんだ……大人って」
答えは見えない。
答えは見えなくてあたりまえ。
目で見てわかったら誰も苦労しないっての。
だって答えはわかるものだから。