表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです~新生活を謳歌していたら、記憶チートで追放先が大発展していました~  作者: りょうと かえ
第5章 予見

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/44

36.選択

 オルドスと話をして、彼は王都に戻っていった。彼は大変驚きながらも、私の提示した最後の計画を否定はしなかった。

 その後、私は大急ぎで支度を調えると、レオールの下へ使者を送る。

 用件は明日、そちらに伺いますということ。

 返事を待たず、私は翌朝ルーインを伴ってレオールへ会いに行った。

(今、彼はエベラルド領にいるはず。手紙にはそう書いてあったし)

 レオールの大きな動向は行き来する手紙で私も把握していた。

 もしかすると帝国の大多数より私のほうがレオールの近況を知っているのかも。

 だけど、そのおかげで私は迷いなくレオールへ会いに行ける。

 夏は終わりかけ、秋。線路沿いの杉も色がやや落ち始める。

 風はまだ暖かいが……エベラルド領に到着すると、なんだか駅の構内が騒がしい。

 人の波がごった返している。

「何かあったのかしら?」

「ヴォルデ行きの列車は線路上に魔獣が出現したため、一時運休といたします。振替の列車につきましては――」

 駅員が大声で叫んでいる。

 なんてこった。私たちと入れ違いで線路上に魔獣が出現するなんて。

 聞くと出現地点はエベラルド領内らしい。

「なんだか多いですね……。公国内でもそうでしたし」

「ええ、そうね……」

 不安の兆候を感じながら、レオールの屋敷に向かう。

 数か月振りの彼の屋敷は、ほとんど何も変わっていなかった。

 変わっているのは咲いている花と葉の色くらいだろうか。

 レオールは屋敷の門前で私を出迎えてくれた。

「久し振りだな」

「お久し振りです。あんまりそんな感じはしないわね」

「手紙でひっきりなしに連絡は取り合っていたからな」

 レオールは変わりないようだった。とても落ち着いており、穏やかだ。

 私は焦っていたのかもしれない。でも彼の様子を目にしたら、不安はかなり和らいだ。

「急に来てしまって、ごめんなさい。居ても立ってもいられなくて」

「君なら構わない。早速だが本題に入ろう」

 レオールに屋敷の貴賓室へと案内される。

 そこは重厚な茶褐色に囲まれ、古そう(かつ読み応えありそうな)本が棚に並んでいた。

 レオールの趣味の部屋ではないように思うので、多分……レオールの父や祖父からの部屋だろうか。

 クラシックながら少しも歪みのない木製の椅子に座ると、レオールが口を開いた。

「用件は概ね想像がついている。公国の中央で何かあったのだろう」

「……ええ」

 私はかいつまんで説明をした。公国内のゴタゴタで危険が迫るかもしれないこと、魔獣の襲撃があり得るかもしれないこと……。

 ディルダについてはあまり話さずに済ませたい。まだ私の夫で公国の王なのだから。

「ふむ……」

 レオールは私の話を聞き終え、じっとこちらの顔を見つめてきた。

「君の立場ではそれしか言えないか」

「うっ……察してもらえると助かるんだけど……」

「さきほど鉄道線上に魔獣が出たが、あれは公国から来たと思われる魔獣だ」

「……っ!!」

「君には知らせなかったが、疑わしい事例がいくつかある。俺が調べたところではラッセリア王の手が増えたとも聞く」

「ええ……そうね、陛下は色々と裏でやっておられるみたいなの」

「率直に聞きたい。ラッセリア王はヴォルデへ実力行使に出るのか?」

 私はごくりと喉を鳴らした。

 肯定すればレオールは必要な行動を取るだろう。それは公国の不利益に繋がりかねない。

 エベラルド領だけでも公国八十万より大きい。

(――何を迷うことがあるのよ)

 私は恐れているのか。目の前のレオールは公国の運命を左右できる。

 彼が動けば……帝国の中枢も動く。

 公国そのものが破滅するかもしれない。

 しかし、今の公国に守る価値があるのだろうか。民の生活は荒れ、魔獣が人里を襲い、官僚は苦境にある……。

 守るべきはディルダや国ではない。

 国土と民のはずだ。

「その可能性は高いと思う」

 応えると自分の肩に力が入っているのが自覚できた。

「ヴォルデには帝国の人間と資産がある。それが危険に晒される――と考えていいのか?」

「引き上げをされなければ」

「なるほどな。さて……」

 レオールが紅茶のカップを手に取った。手は少しも震えておらず、そのまま口をつける。

 大した胆力だ。私の手は少し震えて、テーブルの上に手を出せないのに。

「辺境伯として、公国での動乱は止めねばならん。だが、それだけで皇帝の承認はないだろう」

 それは私も考えていたことだ。

 魔獣の多い公国はそれゆえに外からの攻撃に強く、占領しても旨味に乏しい。

 だからこそ八十万の人口で、周囲を大国に囲まれながらも独立を保っていられたのだから。

「…………」

「君に本当の覚悟はあるか」

「もちろん。私自身にも責任があります。どうなろうとも」

「なら――俺の婚約者になれ」

「はっ? え……?」

「側妃の身分を捨て、帝国に来い。それならば君を救ってやれる」

 レオールの緑の瞳には憤りと悲しみがちらついていた。

 とても冗談で言っている風ではない。

「本気……?」

「君の評価は帝国でも極めて高い。皇帝陛下もお認めになるだろう」

「私はまだ公国の側妃よ」

「何の咎もなく側妃とさせられ国境に送られ、それで対等な婚姻と言えるのか。君の国でも、俺の国でも……離縁を突きつけるのには充分だ」

「それは――確かに、理屈の上では」

「君はもう充分、公国に尽くしたのでは?」

 レオールは怒っていた。

 私の代わりに……そう、私は半ば諦めていた。

 頭を下げないとは決めていたが、王都に戻れても鬱屈とはしただろう。

 ディルダが変わらなければ、また何度も同じようなことが起こってしまう。

 水に濡れてくしゃくしゃになった本は元に戻らない。

 ルーインがそっと、静かに言う。

「コーデリア様、お受けしても良いのでは?」

「ルーイン……」

「兄上の振る舞いは目に余ります。コーデリア様だって……幸せになる権利があるはずです」

 私自身の幸せ。

それは私が公爵令嬢に生まれた時から、ディルダと婚約してからも縁遠いものだった。

 そしてレオールからの好意をこれまで感じてなかったと言えば、嘘になる。

 留学時代から今の手紙に至るまで、彼は私を見てくれていた。

 彼と一緒にいて、私は――幸せを感じることが出来るだろうか。

(答えはもう出ているのに)

 レオールは私を大切に想い、公正かつ幅広く民の為に働いている。

 それこそ私の理想だ。

 真実はわからない。介入の口実に私を使いたいだけなのかも。

 でもそれで良かった。

 もうディルダの妻の妃でいることに、何の幸せも喜びも見いだせない。

 私はすっと息を吐いた。

「……お受けいたします」

「すまないな。こんなタイミングではなかったはずだが」

「いいえ、このような今でなければ……私も決断できなかったかも」

 ラッセリア公国の王都にいたままなら、どうあっても受けなかっただろう。

 だが、王都からヴォルデに来て私も変わっていたのだ。

 ここにいる鬱屈していた、見捨てられていたと思っていた人たちと頑張って。新しい物、新しい仕事を手にして前向きになれたのだから。

 それから、いくつかの話をした。

 具体的にどうするか、婚約と言ってもすぐにどうこうできるわけでもないし。

 あとは昔の話とか。私は見たものは何でも覚えている。

 レオールは感情を隠すのが上手いけれど、それでも映りゆく心の少しは手に取れる。

 それが嬉しいし、彼といると穏やかな気持ちのまま心地良くいられる。

 彼と話し込んでいるとあっという間に時間が経ってしまう。

 もう窓の外は夕焼けになっている。

 最後に私はひとつの部屋に案内された。

「わぁ〜……!」

 それはレオールの書庫であった。

 ただ、本棚は新しい。中の本はかなり古いものもあるけれど。

「折に触れて、君に贈ろうと思っていた」

「ありがとう! 私の読んだことのない本ばかりね」

「ああ、そうだと思う本を集めておいたからな」

 思い返すとディルダから本を贈られたことはなかった。

 夫は本が嫌いだったから。

「座椅子も用意した。ここでたっぷり読みながら寝られる」

「最高ね……!」

「留学時代、よくこうしていると聞いていたからな」

 何年も前のことなのに、よく覚えている。

 そう、本を読むならだるんだるんな姿勢で読みたい。

 ついでに蜂蜜入りの甘ったるい飲み物とセットで。

「今日はこの部屋に泊まっていくといい」

「ええ、是非ともそうするわ」

 昨日から気を張り詰めて疲れていた。あまりに色々なことが起こりすぎている。

 でも心は晴れやかだった。

 要らないものを捨てて、新しいものを手にできるから。

 とりあえず、読んだことのない本を読むのは最高だし。

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『捨てられ才女はどうやら繁栄の切り札だったようです』書籍版は↓の画像から販売サイトに飛べます!!
どうぞよろしくお願いいたしますー!!
>  <a href=

gzod3wrbc20f6aqdnxk4pj0p6i_a6t_jg_sj_8hc4.jpg

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
なんというタイミング(^.^; でもレオール自身がタイミングを不本意そうにしているし、コーデリアも好意に気付いていた上での決断でホッとしました。 続きも楽しみにしておりますねー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ