6話 判決! 暗殺者、流刑に処する
「魔王様が自ら手を下すことはありません。
ここは私が裁定を下します」
「少し待て、クラリス」
すぐに手元の剣を納めて俺の言葉にすぐ従ってくれる。
ただ、もう殺すのは仕方ないとしても、確認したいことがある。
「君はこの少人数で、本当に魔王である私を討てると。そう思っていたのか?」
「あ、当たり前だ!
魔王様はおっしゃった! 生まれたての魔王など我ら暗殺部隊だけで十分だと!」
「だが結果はこのザマだ。
どうかね? 君のところのボスは見る目がないようだ。それとも……捨て駒か?」
「そんな! ……訳は!!」
ようやく冷静に物事が考えられるようになったようだ。どんな時でも、嫌でもこうしたリスク管理については敏感になってしまう。
どこの世界も末端は大変だなぁ。
「まあいい。おおかた君も被害者なのだろう。
情状酌量の余地があると思わないか?
クラリス」
「お言葉ですが魔王様。
御身を狙った所業、万死に値します。
即刻処刑する許可を頂きたく」
軽くお辞儀をしながら、手には紫色の魔剣がまた握られている。
もう無理だ! すまん!
諦めて死んでもらうしかない!
殺しに来たんなら、殺される覚悟だって必要だよね。
そう思おう。俺にはこの子を止められません!
「ふむ。では……」
許可を出そうとした瞬間、重苦しい扉をゆっくりと開けながらアリシャが入ってくる。
顔には白い仮面を着け、正体がバレないよう努めているようだが、美しくなびく金色の髪を隠せていない。
溢れ出る魔力と、神気と呼んでもいい圧倒的な存在感が彼女から滲み出ている。
これでは正体こそわからないが、強力なバックが俺の側にいることが敵に知られてしまった。
正義感強いからなぁ。うちの嫁ちゃん。
「その処刑! ちょっと待った!」
アリシャの名前を呼べば完全にバレるが、まさか魔王が女神と共にいるとは簡単には予想出来ない……はずだ。
とりあえず何か言い返しそうなクラリスを手で制し、続きを促す。アリシャのことを信じて、言葉を待った。
「私ならもう二度と人や魔族と会えない所に転移。流刑にすることができるわ!
いくら先代魔王に忠誠を誓っていても、殺してスッキリするより、よっぽど苦しく生き続けるはずよ!」
訂正。やっぱり性格がおかしいのかもしれない。
ちょっと期待した俺の優しさを返してほしい。
俺が返答する前に、クラリスはどこか納得してうんうんと頷いている。
これ、死よりも残酷なのでは?
思わず同情のあまり暗殺者の肩に手を置いてしまう。俺に貴重な経験を積ませてくれてありがとう。命を取らないだけで感謝してくれ。
「よろしい。ではアリ……仮面の客人に任せるとしよう」
その場を後にしようとした時、暗殺者が待ったをかける。
「待ってくれ! いや、待ってください!
魔王どの!!」
「この後に及んで何だ?
先代に忠誠を誓っているのだろう?」
我が身可愛さに相手に寝返ろうとする。このゴマすりのような振る舞いには、少し頭にくる。
追い詰められると変わる人っているよね。
安全が担保されたら先代の元へ戻るのは間違いないだろうし、言葉を交わすのも面倒だ。
「私は先代魔王から離反し、新たな魔王様にちゅ、忠誠を……!」
全く覚悟の乗っていない言葉は、俺の神経を逆撫でする。さっきまでの戦闘の高揚感が、今まさに冷えていくのがわかった。
「はぁ……。もうわかったわかった。お前は気絶している部下を連れて先代魔王の下へ戻れ」
暗殺者の表情が明るくなる。
よほど流刑は耐えられなかったようだ。
「ちょっと! 本当にそれでいいの!?」
アリシャが激しく抗議してくるが、俺の気持ちは変わらない。元々コイツらを根城に返すつもりなどないのだから。
小声でアリシャに「転移先は誰もいない所で頼んだ」とだけ残し、俺は玉座が鎮座する部屋を後にする。アリシャは少し驚いたように目を見開いていたが、さすがにもう疲れた。休みたい。
背後で魔法陣が素早く展開され、青白い光が玉座を照らしている。
扉を閉めた瞬間、はぁーーっと大きなため息を一つ。ぶっちゃけ命を狙われたことなんて今まで一度もないし、外向け用の魔王ムーブも初めて。これは練習が必要だなぁ。
横でついてきてくれるクラリスは何も言わない。それがやけに居心地が悪かった。
あえて今まで聞かなかった、気になっていたことを聞いてみる。
「クラリス。ちょっと聞いてもいい?」
「何でしょうか?」
「なんでクラリスは先代魔王じゃなくて俺を選んでくれたの?」
クラリスが口にした理由は、俺にとって予想ができない意外なもの。魔王らしからぬ内容だった。




