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3話 形だけの契約結婚

 いやまぁその反応はごもっともだったりする。なんで魔王が先代魔王のことを知らないのか。

 うん。そればっかりは申し訳ない。でも知らないものは知らない。


 教えてくれそうなのが、一人のメイドしかいないから!


「それはね、女神さんが急に俺を呼び出したからだね。世界のことを知るよりも早くここに連れて来られたから。


 まずこの世界に俺が魔王として転生するだろ?

 それから仲間がいなくなる。そしてなぜか女神のあなたにすぐに召喚されたってわけよ」


「何よ、私のせいだって言うの? 大体まだ私名前だって名乗ってないわよね?

 あなたの名前だってステータスではもう見たけど聞いてない。

 それは少し。いえ、レディに対してかなり失礼ではないかしら?」


「すまん忘れてた。俺の名前は……。そうだな、せっかく魔王になってから日本のままの名前は味気ない。

 今から考えるから少し待ってくれ」


 約三分経ち、インスタントラーメンが出来るくらいの時間で俺は自らの名前を決める。


 待ってくれるあたり、やっぱりこの女神、かなり心は優しいんじゃないか?


「よし! 決めた! 俺はこれからクレイヴと名乗る!

 俺は欲しい! 信頼できる仲間。安定した生活。その二つがあれば後は大抵何とかなるもんだからな」


 数年の社会人生活で身に付けてよかったと思うスキルが一つだけある。

 それは周りを頼る勇気。


 どんなに目の下にクマができている話しかけづらい人でも、意外と話が出来るものだ。

 今の俺とこの女神のように。


 ありがとう。クソったれの社会人生活。意外と俺の中に根付いているぞ。

 明後日の方向を見て敬礼していると、やっぱり女神の当たりは強かった。


「随分と自分勝手な名前ね。やっぱり魔王っぽい中身じゃない」


「いや、人間なら誰しも持っている欲だろ。えっ、もしかして女神さん……」


「ないに決まっているでしょ! それと、もう女神さんじゃなくていいわ。

 私の名前はアリシャ。特別に『様』抜きで呼ぶのを許可するわ」


 おや、ちょっとは警戒心が薄くなった様子。仲良くなるならここを逃す手はない。

 無防備にあぐらをかいて座り込むと、アリシャは背後に豪華な玉座を出して座った。


 うん。ちょっとだけ女神様のおみ足が拝めて眼福なり。

 ばれないように顔に視線を戻して話しかける。


「よろしくアリシャ。そんで、アリシャは何の女神なの?」


「今、足見てなかった?」


 さすが、鋭い。


「見てない!」


「そう」と言った後、小声で「変態」と言っていたのは多分気のせいだ。


「私は戦と豊穣の女神。だったわ」


「今は違うってこと?」


「辛うじてだけどまだ求心力は落ちていないから力はまだある。

 でも、魔力がこれ以上少なくなったら、クレイヴが解放した先代魔王の封印だってもう一度出来なくなる。

 あなたでしょ? 封印解いたの」


 ギックゥ!! 一番触れて欲しくないところを突いてくる。

 最初の本題。なぜ俺が先代魔王について全然知らないのかにも深く関わっている。


「な、なんでそれを知っているんだ……」


「だってその封印をしたの、私を含めた三女神全員で発動したものだもの。

 魔法が解かれれば、発動した本人には自動的に伝わるのよ」


 再び呆れながら、「本当に何も知らないのね」と零している。


「知らなかった……」


「もういいわ。この際だから先代魔王のしたこと教えてあげる。

 簡単に言えば、勇者を殺して、世界を大混乱に陥れた。

 先代魔王のせいで町は滅茶苦茶。

 今でこそ復興がだいぶ進んでいるけど、まだ爪痕は残ってる。

 それだけひどい奴なのよ」


「本当に魔王っぽい奴だな。しかしまさか勇者に勝つ魔王もいるんだな。

 いつか勇者に倒されるのが魔王だと思っていたわ」


「おかげで三女神の力の源の求心力がガタっと落ちて、このままじゃ世界を維持できなくなる。

 だから力を合わせて封印したの。

 それをあなたは! どれだけまずいことをしたか本当にわかっているの!?」



 時はアリシャに召喚される前に遡る。

 転生してからすぐに、今はいなくなった側近と名乗る魔族に宝物庫に案内されてから、記憶が飛んでいる。

 次に意識を取り戻したのは、目の前にある古い装飾の箱を開けた後。

 直前にメイドが止めに入ってくれたようだが、間に合わなかったらしい。


 開けてしまったのが丁度、先代魔王が封印されていた箱らしい。名をパンドラと呼んでいた。

 俺はその時、何かヤバイことをしたと思ったが、いまいち実感がなかった。


 だが今、強く思う。

 こんなにも可愛い子が困っているんだ。

 それが例え俺自身のせいなら、尚更。救わねばならない。


 もちろん仲間は欲しい。安定した暮らしも。

 しかし、ここまで追い詰められてようやく成功した封印を台無しにしてしまった。

 どんな時だってそう。やっちまった奴は多かれ少なかれ責任を取らなければならない。

 それを放棄したら、ただのガキと同じ。


 俺の中で、何かが動いた音を感じた。


「なあ、アリシャ。やっぱり結婚しないか?」


「嫌だって言ってるでしょ。スケベ魔王」


「違う。そうじゃない。責任を取りたいんだ」


「せ、責任!?」


「そうだ。俺は仲間が欲しいが、それよりもまずアリシャの頑張りをなかったことにしたくない」


「馬鹿なこと言わないで。魔王と結婚したなんて知られれば、それこそ女神としての格が地に落ちるわ」


「変身魔法を使えばいい! 今はまだ使えないけど、絶対にお前を失望させない!

 形だけでもいい。俺のことはずっと嫌いでもいい!

 まぁ、全部俺の独りよがりのエゴだけどな。ははは」


 少し間をおいて、アリシャが口を開く。


「本当に、あなたが私を、私達三女神を助けてくれるの?」


「必ず。約束する」


「ならちゃんと、あなたが例え死んだとしても、生涯ずっと私達のために頑張るって。

 魂に誓って言える?」


 いつもならここで、重……。と思っていたことだろう。

 だがこの時だけは違った。


 俺は自然と二つ返事で「おう」と返し、片方の指輪を渡す。

 アリシャが左手の小指に嵌めると、結果的に俺の無駄に高い魔力が形成されたパスを通して流れていく。

 心なしかアリシャの元気が少し戻った気がした。


 ◇◇◇◇


 魔王城にウソ結婚したアリシャと共に召喚陣を使って戻る。


「ってのが、俺が消えてからのいきさつなんだけど、ごめんねメイドちゃん。俺結婚しちゃった」


 ミニスカートに少し胸元の見える純白のメイド服に身を包む、唯一残ってくれた彼女に説明する。

 わかりやすく頭を抱えている。まじで勝手なことしてすまんと思っている!!


「魔王様。この世界の常識を学んでください。

 もしこのまま基礎知識を持たないまま勇者がやってくれば、技術や教育というものが充実している者に足を掬われかねません」


「確かに外向けの知識は必要だな。魔王だし」


 元サラリーマン二十七歳。女神の妻子持ち。なぜかこの歳で勉強をすることになりそうです。

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