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14話 勇者に殺されたら許さないから

魔剣グラムを鞘に納め、クラリスの下へと向かおうとした時、上空で剣戟の音が聞こえてハッとする。


クラリスとガルニスが未だ戦いを続け、屋根や塔の上を駆けている。

飛び回りながら規模の大きい戦いを繰り広げる両者は、実力が拮抗しているようにも見える。



◇◇◇◇



私がガルニスを足止めしている間に、グレイヴ様なら民の避難と魔族の鎮圧に動かれるはず。

一瞬二つの大きな魔力がぶつかり合って、片方が消えた。グレイヴ様、どうかご無事で。


肩で息をしているガルニスを見ながら、私は愛しの恩方に想いを馳せていると、相手はやはり限界が近いのだろう。

持久力で私より劣っているのを自覚してか言葉で時間を稼ごうとしてくる。


「はぁ、はぁ……。あなた、本当に何者よ……!

およそ人間とは思えないわ。今まで力を隠してずっと潜んでいたってわけぇ?」


「私はずっと考えていました。真に仕えるのは誰か。それがグレイヴ様だっただけです」


「理解出来ないわ。強い者に付き従うのが私達部下の喜びでしょう!?

どうして明らかに弱いあんな偽物とずっといるのよ! 

あなたなら絶対に、あのお方に見初められるというのに! なぜなの!?」


「二度も言いましたね……?」


「なによ……、私がなにか間違ったことを言ってるっていうの?」


「いいえ、あなたが間違っていても、仮に正しかったとしても__あのお方の侮辱だけは絶対に許しません」


ガルニスが再び屋根を走りながら距離を取ろうと何度も跳び回る。距離を離されないように追随し、移動を繰り返す。


お前に逃げ場はないぞと、その意思だけを示すために。


「どうして攻撃してこないのよ」


「誘っているのは見ていればわかります。

早く奥の手を出しなさい。これ以上のやり取りは時間の無駄です」


「へぇ、まるで歴戦の戦士みたいなこと言うのね。

いいわよ? たかがメイドと侮っていたことを認め、本気でお相手するわ!

災厄の(カース・ド)……!」


ガルニスが奥の手を出そうと唱えた瞬間、肩を掴んだ一人の影が現れる。


「ギル……バート! どうしてこんなところに!」


「魔王様はお怒りだ。ここでまだお前という歯車を失うわけにはいかん。引くぞ」


「私はまだ! こんなメイド風情と引き分けるなんて!」


「黙れ。お前の意見など求めていない。

俺は魔王様よりお前を殺す権限を与えられている」


「……わかったわ」


グレイヴ様の敵となるのであれば、あのギルバートという男は放っておけない。ここで殺さなければならない。


「待っ……!」


私が引き止めようとした瞬間、猛禽類のように鋭い目線だけで制される。

長いこと先代魔王に仕えていた私ですら初めて見る男。


勝てないと本能が警鐘を鳴らしていた。ここで引いてくれるなら、今はただ見送るしかない。


ギルバートという男がはめている指輪に魔力を込めて、転移魔法陣が出現する。

去り際に一言だけ、グレイヴ様に賞賛の言葉をかけてくる。


「俺としても、ここでお前達を殺しきれなかったのは予想外だ。幹部のジェラルドを討ち取った新たな魔王を褒めてやる。

勇者を退けることができれば、今度は俺が相手になろう」


ギルバートが転移魔法陣へ歩いて消える。

ガルニスもまた額に青筋を立てながらも、ギリギリの平静を装って私へ言葉をかけてくる。


「勇者なんかに殺されたら許さないわよ」


私はただ黙って見送ることしか出来なかった。



◇◇◇◇



上で繰り広げられていた戦いが終わったようだ。クラリスが軽やかな身のこなしでスカートを少し押さえ、家の屋根から降りてくるなり頭を下げて謝罪してくる。


「魔王様。敵は転移魔法で逃走し、取り逃しました。処罰でしたら何なりと」


「処罰なんてするわけない。クラリスのおかげで俺達は街の人達を逃せたんだ。

ほら! もっと自分を誇って!」


肩を軽く掴んでポンポンと優しく励ますと、少しの笑顔を返してくれた。


幹部のジェラルドでギリギリの勝負だったんだ。チートスキルを使ったところで今はガルニスにまず勝てない。

こちらに来れないように抑えてくれただけで大金星だ。


問題は、一部戦闘でボロボロになってしまったイリス国と、クラリスの近くに急に現れたもう一つの巨大な魔力を持った人物。

これは後でクラリスに聞いておかないとな。


俺は街の復興を手伝おうと一瞬考えたが、先代魔王と勇者は待ってくれない。

__俺達には、一刻の猶予もなかった。

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