13話 インチキ
咄嗟に魔剣を__いや、間に合わない!
視界の端でギラつく光が見えた瞬間、身体が勝手に地面を蹴り、バク宙が出た。
自分でも驚くほどの完璧な反応で躱したつもりが、頬を伝う温かい感触を、裾で乱暴に拭う。
斬られた……?
「いい反応だ、偽物。
咄嗟の反応がなければ、今頃お前の首は俺の足下に転がっていた」
「そりゃ光栄だね。その剣が飾りじゃないと知って安心したよ」
「ほう、そうかそうか。安心したか。なら今度は俺を安心させてみろよ、転生魔王」
やばい……このジェラルドとかいう幹部。マジで俺より強いな。
真正面からやりあってたらまず勝ち目はない。
俺が生き残るには、徹底的に敵の予想外を続けなければ。
口では簡単に言えるが、相手が知らないのは俺が使える魔法でも魔剣グラムでもない。
チートスキルを押し付けるゴリ押し戦法。対人ゲームで確実に嫌われるハメ殺し。
俺はジェラルドを一種のインチキで退ける。
「作戦は決まったか?」
「待っててくれるなんて、随分とジェラルドは優しいんだな」
「チッ、気安く俺の名前呼ぶんじゃねぇよ」
二人の距離が詰まり、魔剣グラムとジェラルドの持つ剣が激突する。
魔剣グラムがどんなに強い剣だとしても、恐らく相手も魔剣の一種。
力だけの勝負ではジェラルドに軍配が上がるだろう。
鍔迫り合いのまま片手を離し、ありったけの魔力を込めた巨大なファイアボールを爆発させる。
「受け取れ、プレゼントだ」
「デカい……!」
轟音と共に巨大な初級魔法が弾ける。
視界の確保のために空いている隙間から、プスプスと黒煙が上がった。
全身甲冑だ。その厚い装甲でそれだけ動けるのはさすがの一言だが、隙間のないガードは時に自らを苦しめる。
「蒸し風呂の熱加減はどうだい!」
「あぁ、中々に熱かったぜ。熱対策せずに甲冑着込んでる訳ねぇだろ?」
「熱いで済むのか……! バケモンかお前は」
「お前に言われたくねぇなぁ!!」
よし、俺の魔法が牽制できるレベルにいることは印象づけたな。
転生スキルには気づいてなさそうだし、あと気をつけるのは魔剣グラムの存在くらい__と思うはずだ。
やったことはないが、やるしかない!
「ウィンドカッター」
魔剣グラムにウィンドカッターを纏わせ、剣圧を魔法でブーストして放つ。
「それが作戦か? 期待外れだ。
どうやら浅知恵を効かせて、中級魔法と同程度まで威力を上げているようだが、所詮は中級!
全くやる気が感じられんな!」
魔剣グラムで五連撃。強化したウィンドカッターを放つ。
だが、全てジェラルドの魔剣に叩き落とされる。
全く無駄のない動きで一撃一撃が精錬されている。素人目にも明らかだ。
経験者なら師として仰ぐべき高みにいる相手の技量。だからこそ、この攻撃が意味を持つ!
連続でウィンドカッターを放ってから、身体強化魔法を全力で発動して地面を蹴る。
最後に魔法を叩き落とした時の振りが横薙ぎにされた後、ジェラルドの懐深くまで踏み込む。
全て叩き落としたジェラルドと目が合った。甲冑の奥の瞳が僅かに見開かれる。
目視できる全ての魔法を叩き落として生まれる隙。ジェラルドの迎撃が終着した後の、一瞬の硬直。
狙いは上半身の一番分厚いアーマー部分。
魔剣グラムを下段から振り上げた一撃は、無機物の甲冑を溶かすようにジェラルドを深く抉った。
肺から肩口にかけて魔剣グラムが肉を切り裂く感覚もなく、まるで素通りするかのごとく通り過ぎる。
「ガハ……ゴフッ……」
世界の音が止まり、魔族の足音もまた止む。
ジェラルドから大量の血液が飛び散り、付近に血の雨が降った。
理解出来ないと言わんばかりに、出血箇所を押さえながら俺を強く睨む。
「どういう、ことだ……」
ジェラルドがそう零しながら手で押さえた場所が凍っていく。
純粋な剣士を装っているが、甲冑の内側に薄く氷を張って温度調節をしているのだろう。
だからファイアボールが直撃しても蒸し焼きにならない。
常に氷の中にいて戦闘パフォーマンスが落ちないのか疑問だが、もう決着はついた。
後はコイツが先代魔王の下へ帰還させないために殺すだけだ。
「切り札を教える義理はない。
最後に、言い残すことはあるか」
「ねぇよ……! さっさと殺せ!
……いや、一つだけ言わせてもらおう。
お前はあのメイドと一緒にいる限り、常に監視されている。精々俺達の奇襲に怯えながら余生を楽しむんだな」
「そうか。情報提供、感謝する。
痛みなく、お前を殺すとここで誓おう」
「チッ……。ちょっとは魔王らしいことも言えるじゃねぇか……」
甲冑の騎士。先代魔王軍の幹部であるジェラルドの首が足元に転がる。
この時、俺は初めて人を殺した。
パニックに陥ることなく、ただ冷酷に一人の命を刈り取る。
こんなに呆気ないのか。
もっと壮絶な感情の渦に呑み込まれると思ったが、自分と大切な人の命。
それを脅かす者が先代魔王であろうとも、例え勇者であったとしても、俺には区別する必要が感じられない。
この感情は、きっとアリシャやクラリスに伝えてもいい反応は返ってこないだろう。俺はそれを理解している。
大丈夫だ。俺は自分を見失っていない。
なぜここまで戦闘中に頭が回るのかはさておき、とりあえずの脅威は去った。
後はジェラルドの首を持って、勝利を口にすれば残党の魔族は略奪を止めるだろう。
「お前達の大将は討ち取った!
控えろ! そしてこの街から立ち去れ!
魔王軍の者どもよ!」
魔族の群れが散り散りになりながらも街を後にして逃げていく。
転移魔法の使い手は恐らくジェラルドではない。奴はそういうタイプじゃない。
俺達の位置に最初に辿り着いたガルニスも、最前線に自ら殴り込みに来たことから違う。
アリシャと同じだけの魔法練度を誇る者がまだいる。逃げていく魔族連中を追いかければ正体を掴めるかもしれない。
だが、今はガルニスを食い止めてくれているクラリスが気になる。
俺の魔力もまだざっくり見積もっても半分以上はある。加勢に行かなければ……。
「クラリス、無事かなぁ」




