11話 先代魔王の側近 ガルニスの襲来
何だこいつ!
家を斬ったのか!?
木の床がくしゃりと凹み、一撃の重さが見て取れた。忘れもしない。俺が転生してすぐに宝物庫へ連れて行った幹部の女戦士、ガルニス。
「久しぶりね? 魔王様。あら、メイドまで一緒なのね。それと……。なるほどねぇ?」
アリシャとセイレスを見て、妙に納得した表情を浮かべたと思ったら、軽蔑の眼差しで俺を見てくる。
紫色の鉱石があしらわれた黒い鎧に身を包み、胸部と腰回りのミニスカート以外は素肌が見えている。
腹筋は六つに割れており、パッと見ただけで近接を得意にしていると、一目で理解できる出立ちをしていた。
大剣も鎧と同じ素材で出来ているのだろう。
紫の鉱石が怪しく光を放ちながら、身の丈ほどもある大剣を片手で簡単に振り回して、床へ突き刺した。
「あなた、魔王としての威厳はないわけぇ!?
女神と協力しているのは驚いたけど、女神も女神ね。
こんな魔力しか取り柄のないお馬鹿さんと手を結ぶなんて。
あっ! ごめんねぇ??
魔力足りなくて魔族に純潔を捧げたんだもんねぇ?? しかも相手は魔王ですし!
そこまでしないと力を維持できないんだもの! 可哀想なこと言っちゃいけないわよねぇ!!? アハハハハハ!!!」
アリシャがカチンと来たようで、何か言い返そうと一歩を踏み込んだ瞬間、俺が手で制す。
正直俺も何か言い返したかった!
かなりムカつくし。この裏切り者は特に。
だが、それでもこれ以上は余計な情報をやることはない。何らかの手段で俺達の居場所を割り出していたんだ。
電話機や監視カメラのように、俺達のやり取りをどこかで監視しているかもしれないしね。
「言い返すことも出来ないのかしら?
それとも私があなたを殺しに来たことに怒ってる?」
「いいや、よく喋るなって思っただけ。
お前さ、先代魔王のためだろうけど、俺が転生して生まれた時にかなり畏まってたよな?
中々の演技力だった。俺も気分良くて騙されたからな。
でも、人を騙せるほど本気で演じてたんだ。
プライドとかなかったりする?」
「ふふふ。あなたがそれを言うのかしら?
魔族を統べる王として、敵対勢力の女神を頼るなんてプライドがないのかしら?」
「ないね! ようやく手に入れた転生の機会だ。
お前と違ってプライドなんて、そこいらの犬にでも食わせてやったわ! ははは!!」
「そう、やっぱりあなたから離れてよかったと、今改めて確信したわ!」
「元カノ気取りか? 生憎こっちには可愛い嫁がいるんでな! お引き取り願おうか!」
ガルニスが肩に大剣を担いで、一直線に俺へ突っ込んでくる。
咄嗟にアリシャが剣を二本出し、ガルニスに投擲して牽制したがあっさりと弾かれる。
勢いは止まることなく、まるで猛牛のように突進してくる。
だがそれを止めたのはセイレスの魔法ではなく、もちろん俺でもない。
クラリスだ。
剣をメイド服のスカートの丈から取り出し、ガルニスの勢いを止めた。
「あら?」
止められたことを疑問に感じたのか、ガルニスの表情が曇る。実際のところ、俺と力勝負したらクラリスの方が強いだろうし、不思議はない。
俺の魔力の高まりを察して、クラリスがその場から飛び退く。この隙を逃す手はない。
床に手を触れてイメージする。電撃がガルニスだけに吸い込まれていくように。
「サンダーショック!」
一瞬で電撃がガルニスの足元から這い上がり、ビリビリと一瞬硬直する。
いくら下位の魔法とはいえ、どんなに強くても魔王の出力で魔法を放てば、一秒の猶予は生まれる。
「セイレス!」
「ええ、いい使い方よ。
上級魔法、シャーク・デストロン!」
水で出来たサメにも似た形の動物が、ガルニスの防具がない腹部へと噛みついた。
血が滴り内臓を噛みちぎるかと思ったが、素手で牙を力強く掴んで膂力だけで引き剥がしていく。
なんつー馬鹿力だよ!
上級魔法を使ってもノーダメージじゃん!!
セイレスも目の前の光景が信じられないようで、俺の後ろに隠れるように移動してガルニスを覗く。
「明らかに昔より魔王の軍勢が強くなっている……」
ガルニスが上位魔法を引き剥がし、両手で抱くように締め上げる。
サメが苦しそうにバタバタ抵抗していたが、それも虚しく魔力が空中に霧散する形で消え去った。
「確かに私は昔に比べて強くなったけど、あなた達女神は弱くなったわね?
だからここまで力の差が生まれている。
全力がまだ出せないのも無理ないわ!
だってそんなことしたら、身体が消えちゃうものねぇ??」
つくづく癪に触る煽り方をする。
俺はこの時、割と我慢の限界が近かった。
それでも、まだガルニスは言葉を止めない。
「さっきの上級魔法より、魔王のあなたが放つ下級魔法の方が効いたわよ?
けど、最初に私の攻撃を受け止めたメイド。
あなた一体何者?
昔からずっと力を隠してたの?」
「裏切り者と言葉を交わすつもりはありません」
「あらそう。でも教えてあげる。
私が仕えている魔王様から見れば、そこの偽物に付いているあなたの方こそ、裏切り者ね」
あーあ、言っちゃった。
現時点だが、この中で一番強いクラリスに喧嘩売っちゃって……。もう俺は知らんぞ?
クラリスが両手に剣を携えて構える。
相手は先代魔王軍の側近を名乗る戦士。でも不思議とクラリスが遅れを取る気はしなかった。
ここは任せて、俺達は火が上がっている街の入り口に行った方が良さそうだ。
「クラリス。初めての命令だ」
「はい。何なりと」
「あの女にお灸を据えてあげなさい」
「かしこまりました。仰せの通りに」
後はここからの移動だが……。
そのままどうぞと逃がしてくれる訳もなく、ガルニスは再び肩に大剣を担いで、俺を討ち取ろうと低い構えを作っている。
「アリシャ。転移魔法陣だ」
「もう出来てるわよ!」
さすが嫁ちゃん。状況判断が俺より早い。
「セイレス! ここは自慢のメイドに任せて、俺達は火の手を止めに行くぞ!」
「でも魔王軍の側近相手に一人で立ち向かうなんて!」
「大丈夫さ。クラリスは俺よりずっと強いから」
セイレスの腕を引いて俺達は転移し、クラリスとガルニスだけが残された。
「あなた。今の言葉の意味、本当にわかってる? ここで身代わりになって死ねって言ったのよ」
「いいえ、あなたにはわかりません。
魔王様は私を信じて送り出してくださいましたから」




