1話 出会ってからすぐに酷くない?
「あなたと結婚するくらいなら、神格を落としてただの人間になった方がマシよ!」
出会ってから開口一番、人格否定に等しいことを言われてしまう。
そりゃないぜこの世界の女神さんよ。俺はこれでも仲間なんてただ一人のメイドしか居ないってのに!
太陽の光すら入ってこない空間に、石柱が規則正しく並んでいる大空間が広がっている。女神だけに許されている部屋。というところだろうか。
「どうしてこうなった……」
ついついそう言葉を零して涙を流しているのは、転生してから数日しか経っていない元サラリーマンの俺、二十七歳。魔王。
三徹してから泥のように意識を失い就寝。
そしてまた三徹。もちろん会社で夜を越えて朝を迎えるなんざ日常茶飯事。
そんな日々を過ごせば早死にだってする。
労基? ははっ! 何それ美味しいの?
とまぁそんな感じで天寿を早めに終えた俺だったが、運良く記憶とチートを引っ下げて、目の前にいる金髪の偉そうな奴とは別の神が、異世界転生させてくれるらしい。やったぜ。
これで今までのクソったれな人生をやり直すチャンスを貰ったわけだ。
にも関わらず、今の俺はすごくピンチだ。
なんでかって? そりゃ魔王なのに一文無しだから。
魔王の軍勢もいなけりゃ、魔法だって大して使えない。この世界から見たら生まれたての子鹿と同じ。
俺が何でこうなってるかは、全部目の前にいる自称女神と、俺を魔王に転生させた神が悪い。ということに今はしておこう。
「ちょっと! 私を前にしてなんで遠い顔してるのよ! 魔族のくせに!」
カチン。
「ハッハッハ。ふざけんなよお前! 俺だってなぁ! 魔王城で最初は新しい魔王が転生なされたって言われて、チヤホヤされたかと思えば! 急に一人のメイドを除いて周りに誰もいなくなったんだぞ!」
目を背けたくなる現実に涙が止まらない。
やはり原因は間違いなくあの箱を開けたからだろう。
「急に一人でベラベラ喋るの止めてくれる?
キモ。それに魔王が転生? それが、あなた?? 流石に笑えない冗談ね」
なんか軽蔑の眼差しを向けられている。
俺だって自分が何者なのかわからないんだよな、魔王なのに。と自虐風に笑うと、更にドン引きの少女。
あっ、よく見たら普通に可愛い碧眼。
「うわ、今度は笑ったと思ったら泣いてる。あなた、情緒がぶっ壊れてるんじゃないの?
それともどこか召喚の影響で本当に頭が……」
「うるせぇ!! 俺は正常な元人間だぁ!!」
これではアホの上司に虐げられていた生前とまるで変わらない。というかなんだこの外面だけ可愛い生き物。
白いワンピースっぽい軽めの服を身に纏う、現実感のないほど整った顔立ち。
漫画の中でしか見たことのないキャラクターのようだ。
「落ち着いた? なら説明してもらうわ」
「説明して欲しいのは俺の方だ! ここどこ?
あとアンタ誰?」
「偉そうに……! 私はね、魔族はおろか人間だって滅多に姿を見られない三女神の一人なのよ? そこに今すぐ跪きなさい! この自称魔王!!」
「はっ! 自称女神に付く膝なんてないね!
俺はこの世界に来たばかりで知り合いのいない転生魔王だって言ってんだろうが!」
三女神? の少女が指を俺に真っ直ぐ向けてくる。
「じゃあステータス見せなさいよ」
「あ? ステータスゥ?」
「そうよ。確認するから、ほら早く」
急にゲームチックなワードが出てきてよくわからん。ここ異世界じゃなくて、実はゲームの中だったりする?
全く高飛車のお嬢様かコイツは。呆れながらも言葉を返す。
「ステータスってどうやって見んの?」
「はぁ?」
分かりやすく両手を腰に呆れたポーズを取る自称女神。呆れてるのはこっちだってのに。
「そんなことも知らないのに魔王なんて笑わせる。オープン! って唱えれば出てくるでしょ。さっさとやって」
すると確かに目の前に彼女のステータスが表示されている。覗こうとしたら叩かれた。
俺魔王なのに結構痛い。
頬をさすりながら
「わかったわかった。オープン」
言われるままステータスを確認するコマンドを唱えると、青いウィンドウが現れる。
「最悪……。本当に魔王じゃないの」
ドン引きであるのはよくわかる反応だ。
人のことを嘘つき呼ばわりしやがって。中身は人間だけど。
「なんで……! この儀式で呼べるのはこの世界にいる心と魔力が強くて純粋な者だけのはずなのに!
ちゃんと魔法陣は起動してるわよね……?
そう言って蹲り、俺を無視して地面に描かれた陣を指でなぞっている。
「おーい。俺が魔王ってわかったらどうなんの?」
「もうあなたに用はないわ。死んで頂戴」
「は?」
急な死刑宣告。
顔面に向けて放たれた剣を紙一重で躱す。
背後の石柱に真っ直ぐ突き刺さった剣を見て、俺はトンズラするべく回れ右をする。
「何逃げてるのよ!」
「そりゃ逃げるだろバカ女神!」
何本も投げられた剣が石柱へ全て刺さり、そして耐えきれなくなって倒れる。
すかさず倒れた石柱を陰にして一息付いた。
いくら魔王と女神が対極にいたとしても、いきなり刃物ぶん投げてくるのはちょっとやり過ぎだろ。
と、思わずツッコミを入れたくなる。
「そんな陰に隠れたところで、安心しないことね!
別にあなたの身なんて私は気にしてないけど!」
顔の横に貫通してきた剣がすり抜けてくる。
さぞ切れ味が凄まじいのだろう。
こんな物で斬られたら重症待ったなし。
魔王とはいえ、痛いことは極力さけたい。
そんな意識に考えが傾いた矢先、女神と名乗る少女が剣先を向けてくる。
「これで終わりね」




