時の流れを感じる者たち
ヒロは、気づいていない。
それだけは、はっきり分かる。
酒場で向かい合う二人。
言葉の端々。
沈黙の置き方。
(……時間が、違う)
それは感情の話じゃない。
嫉妬でも、独占欲でもない。
もっと、冷たい違和感。
モモは、この世界に慣れすぎている。
立ち居振る舞い。
視線の配り方。
無意識の距離感。
(私たちと時間軸がズレている…?
いや、違う。もっと単純な事。
ヒロよりも重ねた年数が違う。
どういう事?)
(……いや、それ以上)
「リーゼ、飲まないのか?」
ガルドが声をかけてくる。
「ええ」
「少し、考え事を」
ヒロが、モモを見る。
その視線に、迷いはない。
(……過去だ)
あの視線は、
「今」を見る目じゃない。
(取り戻したものを見る目。
ヒロが見た最後のモモを求めてる。)
モモは、
気づいている。
気づいた上で、
何も言わない。
それが、何より厄介だった。
「リーゼさん」
モモが、こちらに微笑みかける。
「ヒロ、あいかわらずあんな感じですか?」
「……ええ」
「無理を、隠します」
モモは、少しだけ目を細めた。
(分かってる)
(この人、
ヒロの“癖”を
知っている)
胸の奥が、
静かに軋む。
(私は、後から来――リーゼ視点――
ヒロは、気づいていない。
それだけは、はっきり分かる。
酒場で向かい合う二人。
言葉の端々。
沈黙の置き方。
(……時間が、違う)
それは感情の話じゃない。
嫉妬でも、独占欲でもない。
もっと、冷たい違和感。
モモという女は、
ヒロよりも――
この世界に慣れすぎている。
立ち居振る舞い。
視線の配り方。
無意識の距離感。
(最低でも、私と同じ)
(……いや、それ以上)
ヒロは一年。
私は一年。
それなら説明がつく。
だが、彼女は違う。
二年――
いや、もっと。
「リーゼ、飲まないのか?」
ガルドが声をかけてくる。
「ええ」
「少し、考え事を」
ヒロが、モモを見る。
その視線に、
迷いはない。
(……過去だ)
あの視線は、
「今」を見る目じゃない。
(取り戻したものを見る目)
モモは、
気づいている。
気づいた上で、
何も言わない。
それが、何より厄介だった。
「リーゼさん」
モモが、こちらに微笑みかける。
「ヒロ、相変わらずこんな感じ?」
「……ええ」
「無理を、隠します」
モモは、少しだけ目を細めた。
(分かってる)
(この人、ヒロの“癖”を知っている)
胸の奥が、
静かに軋む。
(私は、ヒロの過去を知らない。
一緒に過ごした時間しかわからない。)
(今を一緒に生きているだけ)
それだけの、存在。
「大丈夫です」
リーゼは、言った。
「ヒロは、強いですから」
モモは、
ほんの一瞬だけ、
悲しそうに笑った。
「……そうだね」
その笑顔が、答えだった。
(強いから、壊れる)
(壊れるまで、誰も止められない)
(次は止める)
ヒロは、
世界の流れに
巻き込まれている。
いや。
(巻き込んでいる)
本人が気づかないまま。
モモは、
その流れの“外”にいる。
過去から来た者。
未来を知っている者。
(……危うい)
ヒロにとって、
彼女は救いだ。
だが、
世界にとっては――
歪みそのもの。
リーゼは、
決めた。
(私は、“今”を守る)
過去でも、
未来でもない。
ヒロが今立っている場所を。
それが、
私の役目だ。
酒場の喧騒の中で、
リーゼは静かに、
剣の柄に手を置いた。
まだ、抜かない。
だが――
いつでも、抜けるように。




