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太陽の影

酒場は、うるさい。

昔から、こういう場所に来るのは1人では苦手だった。


でも今は――

嫌いじゃない。


だって。


(……本当に、いる)


ヒロが、目の前にいる。


少し猫背で、

落ち着きなくて、

でも、私を見る時だけ

視線が逃げないところも。


(変わってない)


……ううん。

正確には、少しだけ変わっている。


顔つき。

間の取り方。

沈黙の重さ。


(……一年、って顔じゃない)


そう思った瞬間、

胸の奥がちくりとした。


「短いね」


口に出したのは、

本音じゃない。


(短くなんか、ない)


(1年でも、十分すぎるくらい長い)


それなのに、

どうして私は

「短い」なんて言ったんだろう。


ヒロは、気づいてない。


それが、分かる。


彼はいつもそうだった。

自分より、

世界より、

誰かの気持ちを優先して――

結果的に、一番大事なところを見逃す。


(……そこが、好きだったんだけど)


「ちょっと長かったかな」


そう言った時、

ヒロの目が、少しだけ揺れた。


(今の、引っかかった?)


でも、すぐに流れる。


(……やっぱり、気づかないか)


リーゼという女の人が、

私を見ている。


鋭い。

でも、優しい。


(この人……)


(分かってる)


私が、

ヒロより“長く”ここにいること。


いや――

もっと言えば。


(ヒロより、

 ずっと前から

 ヒロを知っていること)


私は、まだ確信していない。


数字も、

理屈も、

全部、曖昧だ。


でも。


(……7年)


その感覚だけは、

消えない。


待った時間。

探した時間。

諦めようとして、

諦めきれなかった時間。


異世界で過ごした2年より、

その前の5年の方が、

ずっと重たい。辛かった。


「ずっと、待ってたから」


言った瞬間、

ヒロが少しだけ困った顔をした。


(あ……)


(重かった?)


でも、いい。


(これくらい、いい)


だって私は、

やっと――

報われたんだから。


ヒロの隣に、

また立てたんだから。


(……でも)


心の奥で、

小さな声がする。


――本当に、同じ時間を生きてる?


私は、

その答えをまだ探している。


太陽は、

自分の影の長さを

知らない。


だから――

私が、覚えていよう。


ヒロが忘れている時間を。

ヒロが気づかないズレを。


この再会が、

偶然じゃないことを。

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