日はまた昇る
王都東区、治癒院付設の相談所。
人の出入りが多く、
雑音に満ちた場所だった。
「……ここだ」
ヒロが、足を止める。
「こんなところに何の用事があるんだ?」
ガルドが尋ねる。
ヒロは、答えなかった。
心の乱れを抑えるのに、それどころではなかった。
リーゼは、何も聞かずに黙っている。
何となく感じてしまった。
嫌な予感だが、止められない、事だと。
「ふぅ…よし」
ヒロが扉を開ける。
「そうだなぁ…、
今はまだ行かない方が良いと思う。」
明るい声。
懐かしい声。
聞きたかった声。
声の主はカウンター。
ヒロの視界が、涙で一気にぼやける。
「モモ…モモっ!!」
この一年、一度も発しなかった名前。
でも、ずっと声にしたかった名前。
気づけば大きな声が自然と出ていた。
ガルドは驚き、リーゼは悲しい目をした。
女が、こちらを見た。
理解できない、という顔。
「……ヒロ?」
部屋の中の視線が二人に集中した。
「ヒロ!!」
カウンターの女が、駆け出す。
ガルドは全く状況を理解できていない様子。
リーゼは、全てを悟り、諦めの気持ちになった。
くしゃくしゃの顔で抱き合う二人。
「やっぱり、いた。
待ちくたびれたぞ、私の勇者。」
「モモ…ごめん」
「あ……」
二人の存在、周りの雰囲気に気づき、
恥ずかしそうに女が離れる。
「ごめんなさい。……その人たちは?」
「……仲間だ」
女は、小さく息を吸う。
「初めまして」
「モモです」
俺にとって一年ぶりの笑顔がそこにある。
ガルドもリーゼも一瞬でその笑顔の持ち主に心を奪われ、警戒心はなくなる。
「ガルドだ。こっちはリーゼ」
リーゼが頷く。
「ヒロ…ところでどういう知り合いだ?
お前に知り合いがいたなんて。」
困った表情のヒロ。
答えらない。いや、答えられない。
モモが、一歩前に出る。
「……ヒロと同じ世界から来た知り合いです。」
ガルドの目が、
わずかに見開かれる。
「同じ世界?
俺たちも同じ世界だけどな?ハッハッハー」
豪快な笑い声が部屋に響く。
…理解していないな。
「あっ…!?ヒロ、話してなかったの?」
モモが聞く。
「うん。何をどう話せば良いか分からなくて。
話すのが怖くて。」
リーゼは、理解する。
今までの旅でヒロに感じた違和感の正体を。
二人にはもう全てを話そう。
分かってくれるだろうか…。
大丈夫だ。俺は一人じゃない。
俺が悩んでいると、珍しくガルドガルド気を効かせてくれた。
「久しぶりの再会みたいだし、俺たちは外で用事を済ませてくるぜ。あとで酒場で合流しよぜ。じゃあまたあとでなモモ。」
相変わらずの距離の詰め方をし、部屋を出ていく。
リーゼは最後までモモの事を見ながら、
ガルドについていく。
敵意がある訳でもなく、友好的でもない。
少し悲しげな目だった。
(この人は)
(ヒロの“過去”)
(私は……“今”)
ヒロの心に太陽が再び上がった事で、
影に隠れていた部分が照らされた。
俺の心は不安な気持ちで溢れた。
でも、すぐ落ち着いた。
太陽が横で微笑んでいるから。




