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闇は止まる、しかし太陽は昇らない

夜の倉庫街は、音を吸い込むように静まり返っていた。


「……動きは?」


低く抑えた声で、ガルドが問いかける。


「問題ない。外周も裏口も、今のところ人の気配はなし」


答えたのは、黒装束の女冒険者だった。

月明かりを避けるように影に溶け、無駄のない動きで倉庫の扉へと近づく。


ガルドは一歩引き、周囲を見張る位置についた。

剣には手をかけない。ただ、いつでも踏み込める距離感を保つ。


(……臭いは、複数)


獣人としての嗅覚が、倉庫の中に閉じ込められた人の存在をはっきりと捉えていた。

鉄、汗、恐怖。

そして――微かに、別の何か。


「……?」


だが、考える暇はない。


女冒険者が鍵穴に指を滑らせた。

金属音は一切立てず、内部の構造を読み取るようにして、静かに解錠していく。


――カチリ。


最初の檻が開く。


「静かに。大丈夫、もうすぐ出られます」


女冒険者の声は低く、しかし不思議と安心感があった。

檻の中の女性たちは、怯えながらも頷く。


次、また次。


足枷、手枷、鎖。

複雑なものほど、彼女の動きは速くなっていく。


ガルドは背後を警戒しながら、視線だけで内部を確認する。


(……全員、生きてるな

 それにしても大した技術だ。)


その時だった。


解放された人々の列が、倉庫の奥から出口へと誘導される途中、

一人の女性がガルドのすぐ横をすり抜けていった。


ほんの一瞬。


「……っ」


ガルドの鼻が、微かに反応する。


(この匂い……)


懐かしいような、胸の奥を掠める感覚。

だが、それが何かを考えるより早く、別の匂いが強くなった。


(見張りか)


「……動くな」


ガルドは即座に気配を断ち、影へ戻る。

倉庫の外を巡回する足音が、遠ざかっていく。


救助が最優先だ。


ガルドは、今感じた違和感を意識の奥に押し込めた。

「こちら完了。残り二人よ。」

女冒険者が静かに告げる。


「了解。出口は確保してる」


最後の檻が開いた。


女性たちは互いに支え合いながら、夜の外気へと踏み出していく。

月明かりに照らされたその表情には、まだ恐怖が残っているが――確かに、生の気配があった。


「……名前、聞いてなかったな」


撤収の合図を出しながら、ガルドがぽつりと言う。


女冒険者は一瞬だけ振り返る。


「ハンナよ。

 貴方は…ガルドよね?」


それだけ言って、再び影の中へ溶けていった。


ガルドは最後にもう一度、倉庫を振り返る。


(気のせい、か)


胸の奥に残る、説明のつかない感覚。

だが、それを確かめる理由も時間もない。


「行くぞ、ガルド

 このまま組織を潰す。」


アランと名乗る雇い主の号令がかかる。


誰も、彼が王子であるとは想像もしない。



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