冴えるスキル、止まらない商売無双
ここ最近、冴えている。
全てが上手くいく。
あらゆる行動のあらゆる正解が見える。
考えが、勝手に先へ進む。
商談の流れ、街の需要、次に動く商人の顔。
一つ思いつくと、三つ先まで見える。
――これなら、通る。
――ここを抑えれば、次は楽だ。
自分の考えと目の前に見える数値が
恐ろしいほどマッチする。
最後の選択は自分でしているつもりなのに、
正解というゴールへの線路が敷かれ、
歩くだけで良い、歩かされている感覚を
強く感じる。
「……」
ペンを置いた瞬間、指がわずかに震えていることに気づく。
疲れている?
いや、違う。
疲労というより、削れている。
少しずつ。
音もなく。
(おかしいな)
成果は出ている。
むしろ、今までで一番いい。
街の商人たちは、俺の判断を疑わなくなった。
ミレイも、確認を取る前に動くことが増えた。
信頼されている。
頼られている。
それなのに、胸の奥が満たされない。
帳簿を閉じる。
数字は、完璧だ。
――93%
――95%
――99%
なのに、その数字を見ていると、
どこか他人事みたいに感じる。
身体と心の繋がりが離れているような感覚。
(……モモ)
ふと、思考が逸れた瞬間、胸がきしんだ。
探している。
忘れていない。
優先順位を下げたつもりもない。
でも、ここにいないのが現実。
数字は嘘をつかない。
成果は裏切らない。
なのに、一番大事なものへの線路だけ
が敷かれない。敷くことが出来ない。
だから、考えるのを一旦止める。。
止まっている自分が許せない。
モモに申し訳ない。
考える代わりに、動く。
帳簿を開く。
取引を進める。
成功すれば、目に見える結果、数値が見える。
結果が出れば、意味がある。
意味があれば、無駄じゃない。
そうやって、自分に言い聞かせる。
「……次だ」
声に出して、仕事に戻る。
誰かに助けを求める発想はない。
弱っている自覚がないからだ。
ただ、前よりも速く。
前よりも多く。
前よりも深く、商売に沈んでいく。
スキルが冴え渡る。
成功に、酔っているわけじゃない。
成功している今は,止まれない。
もし止まったら、
モモがいない現実だけが、はっきりしてしまう。
だから、今日も考える。
数字を見る。
正解を選ぶ。
進み続ける。




