表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/58

高い成功率、叶わない結果

帳簿を開いた瞬間、視界が静かに切り替わる。


――選択肢が、浮かぶ。


・卸値を一割下げて回転率を上げる【成功率:93%】

・商会三社に分割発注する【成功率:95%】

・輸送日を一日早める【成功率:91%】


……高い。


高すぎる、と言うべきかもしれない。

だが今の俺は、それを疑わなかった。


「このルートでいきましょう」


ミレイが目を丸くする。

「また即決やん。ヒロ、ほんま最近冴えすぎやで」


「たまたまです」


そう答えながら、ペンを走らせる。

計算は合っている。数字も噛み合う。

結果も、見えている。


商会の空気が変わったのは、もう誰の目にも明らかだった。


在庫は滞らず、損失は出ず、

取引先は増え、条件は向こうから下げてくる。


ユウガが淡々と報告する。


「次の会合ですが、向こうから日程を前倒ししたいと。条件もこちら有利です」


「わかりました。受けましょう」


迷いはない。

数字が、全部教えてくれる。


――正しい選択を。


視界の端に、成功が並ぶ。

(……楽だな)


そう思ってしまった自分に、わずかに引っかかりを覚える。

だが、その感覚はすぐに消えた。


今は考えるべきことが多すぎる。


商談、価格、物流、契約。

街の金の流れの中心に自分がいる……。


「ヒロ」


ミレイが、ふと声を落とす。


「……大丈夫か?」


「何のこと?」


「いや。最近、寝てへんやろ」


「寝てるよ。大丈夫。」


嘘ではない。

眠れてはいる。ただ――夢を見ないだけだ。


商会を出ると、夕暮れの街がざわついていた。

噂が走っているのが、空気でわかる。


――ヒロの商売は確実だ。

――あいつに逆らうな。

――次は何を握る気だ。


(……違う)


俺は、何も握っていない。

ただ、数字をなぞっているだけだ。


それなのに。

胸の奥に、空洞がある。


モモは、いない。


探していないわけじゃない。

諦めたわけでもない。


ただ――

数字が、そこだけを示してくれない。


商売の数字が九割を超えているのに、

モモのことになると何も出てこない。


(……今は、動くな。

 いや、動けない。)


理性がそう告げる。

街の中心になってしまった以上、下手に動けば全部が崩れる。


わかっている。

正しい判断だ。


でも――


帳簿を閉じた指先が、わずかに震えた。


成功している。

誰よりも、うまくやっている。


それなのに。


「……クソ」


小さく吐き捨てて、俺は次の商談へ向かう。


足は止まらない。

数字が、前に進めと言っている。


守れなかったものから、目を逸らすように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ