鈍感…違和感
夜の空気は、少し冷えていた。
ヒロは窓辺に立ち、
街の灯りをぼんやりと眺めている。
(……三人で、か)
リーゼとミレイ、
そしてモモ。
昼間、その話を聞いた時、
安堵した。
嬉しかった。
微笑ましかった。
リーゼも、ミレイも、
最近はずっと気を張っている。
商談の場。
駆け引き。
自分の判断に付き合わされる形で、
余計な緊張を背負わせてしまっている。
(あの二人には……休憩が必要だ)
だからこそ、
三人で会うという話を聞いて、
素直に「良かった」と思った。
仕事の顔じゃない時間。
役割から離れた場所。
女子会、という言葉が浮かんで、
少しだけ笑ってしまった。
――でも。
(モモは……)
思考は、自然と一人に戻る。
最近、
ちゃんと向き合えていただろうか。
一緒にいる時間はある。
同じ部屋で、同じ食事をしている。
それでも――
「話を聞く」ことは、できていなかった。
(俺の都合ばっかりだな)
商談がある。
考えることがある。
街の流れを読む必要がある。
そう言い訳して、
モモの隣に“いるだけ”で済ませていた。
(……相手、してあげられなかった。
せっかく会えたのに。
…一緒にいられない。)
だからこそ、
今日の約束は、
モモにとっても良い時間になればいいと思った。
自分抜きで。
気を遣わずに。
(楽しんでくれたら、それでいい)
そう、本気で思っていた。
だから、同行しなかった。
口も出さなかった。
――なのに。
(……遅い
そろそろ終わっても良いころでは?)
時計を見る。
理由は、いくらでもある。
話が弾んだ。
寄り道をした。
夜の街を楽しんでいる。
どれも、自然だ。
それでも。
(安心したい
……数字、出ないな)
視界を探す。
選択肢も、確率も、
いつもの“表示”が現れない。
(珍しい……)
不安、というより違和感。
異世界に来てから、
判断には必ず根拠があった。
数字がある。
確率が見える。
(今日は……何もない)
昔を思い出す。
根拠もなく、
「大丈夫だろう」で動いていた頃。
上手くいっていた時代。
そして、崩れた時代。
(……嫌な感覚だ)
ヒロは、立ち上がった。
心配だから、ではない。
疑っているわけでもない。
ただ――
(迎えに行かない理由が、ない)
帰り道くらいは一緒にいたい。
この前は昼間のデート。
今日は夜のデート。
たまには良い。
違和感を覚えながらも、良い可能性だけを想像して、
外套を羽織り、扉を開ける。
廊下は静かで、
宿は夜に沈みかけている。
階段を下りながら、
ヒロは自嘲気味に思った。
(……俺、遅いんだよな)
気づくのも、
動くのも。
宿の外に出ると、
夜風が頬を打った。
街はまだ明るい。
人の気配もある。
それなのに、
胸の奥だけがざわついている。
(……大丈夫だ)
自分に言い聞かせるように呟き、
ヒロは歩き出した。
走るほどじゃない。
でも、足は自然と早まる。
数字は、出ない。
それでも――
(今夜くらいは、勘でいい)
そう思いながら、
ヒロは街の闇へ溶けていった。




