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裏の成功

「……はぁ。終わらねえ」


夜の商会。

灯りは落とされ、残っているのは数人だけだ。


ユウガは椅子に深く腰を沈め、帳簿を睨みつける。


「誰だよ、この量を今日中とか言ったの」

「人を何だと思ってるんだ……」


ペンを置き、首を回す。

肩が重い。目が痛い。


(完全にブラックだろ……)


最近は特にひどい。

商売が回るようになった分、仕事も増えた。


――ヒロが来てから、街の流れが変わった。


それは事実だ。

数字も、取引先も、明らかに伸びている。


だからこそ。


(……空気が、変だ)


帳簿から目を上げる。


商会の奥。

人の声が、低く、短く交わされている。


「……終わったそうだ」


ユウガの手が止まる。


「予定より早かったな」

「余計なことは聞くなよ」


声は抑えられているが、

夜の静けさの中では、はっきり届いた。


(終わった?)


何がだ。


運び屋の一人が、気だるそうに言う。


「これで少しは流れが戻るだろ」

「最近、偏りすぎてた」


偏り。


その言葉に、嫌な引っかかりを覚える。


(……偏り?)


脳裏に浮かんだのは、

ヒロの姿と――その隣にいる、モモ。


(いや、考えすぎだ)


ユウガは自分に言い聞かせる。

証拠はない。名前も出ていない。


ただ。


夜。

終わった。

偏り。


その断片が、胸の奥で噛み合わない。


「……くそ」


ユウガは立ち上がった。


「もう無理。今日は限界」


帳簿を閉じ、椅子を押し戻す。


「残りは明日でいいだろ……」


そう呟きながらも、

足は出口へ向かっていた。


理由は分からない。

ただ、じっとしていられなかった。


(嫌な予感がする)


それだけで、十分だった。


扉を開ける。


夜風が、顔に当たる。


街の灯りは、まだ消えていない。

人の声も、ある。


――なのに。


何かが、もう起きてしまった気がした。


「……待てよ」


ユウガは、小さく息を吸い込み、

仕事を放り出して、街へ走り出した。


胸騒ぎの正体を、

確かめずにはいられなかった。

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