望まない結果
リーゼは、店の扉を三度見た。
開く気配はない。
外の夜気だけが、隙間から流れ込んでくる。
(……遅い)
約束の時間は、もう過ぎていた。
「モモさん、方向音痴ちゃうよな?」
ミレイは笑いを混ぜて言ったが、視線は落ち着かない。
「ええ。時間にも、かなり正確な人よ」
リーゼは答えながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(嫌な感じ……)
理由はない。
根拠もない。
ただ、感覚だけが騒いでいる。
ミレイが、ふと表情を曇らせた。
「……うち、あかんことしたんかな」
「どういう意味?」
「今日の話。
誤解、解けると思ってたけど……
逆に追い詰めてもうたんちゃうかって」
リーゼは、はっとした。
(……あ)
モモの表情。
最近よく見せる、あの「自分を後回しにする笑顔」。
「……いいえ」
リーゼは、強く首を振った。
「あなたは、何も間違っていない。
むしろ……私がもっと早く気づくべきだった」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
その時。
店の外で、誰かが走る音がした。
リーゼは、思わず立ち上がる。
「モ――」
だが、扉は開かない。
胸の奥で、嫌な予感が形を持ち始める。
「……なぁ」
ミレイの声は、いつになく低かった。
「ヒロ、最近……敵作ってへん?」
リーゼの指が、ぴくりと動いた。
「……商会の中で、軋轢があるとは聞いているわ」
「それ、女使うタイプのやつちゃう?」
冗談めかした言い方だったが、
目は笑っていなかった。
リーゼは、はっきりと理解してしまった。
(……しまった)
モモは、ヒロの“弱点”で。
そして――表に出すには、あまりにも分かりやすい存在だ。
「ミレイ」
リーゼは、静かに言った。
「すぐに出るわ」
「うん」
二人は同時に立ち上がり、外へ走り出した。
だが――
この時点で、
もう一歩、遅かった。
街の灯りは、変わらず穏やかで。
人々は、いつも通り夜を過ごしている。
その中でただ一つ、
モモだけが、いない。
リーゼは、心の中で初めて祈った。
(今度こそ……無事で)
それが、
一人の友としての祈りだった。




