誤解を解きたかった
リーゼは、はっきりと気づいていた。
モモの笑顔が、以前と違うことに。
ヒロの隣にいる時でさえ、どこか遠くを見ている。
必要以上に言葉を選び、必要以上に一歩引いている。
(……耐えられない)
仲間として。
友人として。
そして――かつて、同じ人を想った者として。
リーゼは、ミレイを呼び出した。
昼間の市場外れ、人気の少ない路地。
ミレイはいつもの調子で現れたが、リーゼの表情を見て、すぐに察した。
「……モモさんのことやね?」
「ええ。もう無理です。」
リーゼは、迷わなかった。
「モモが……悩んでいるの。あなたのことも、ヒロのことも」
ミレイは一瞬だけ目を見開き、それから苦笑した。
「うちが原因、って思われてるんやろな」
「……ええ」
「でも、それはちゃう」
ミレイは、きっぱりと言った。
「うちはヒロのこと、仕事仲間として信用してるだけや。
それ以上でも以下でもない」
リーゼは、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
「だからな」
ミレイは続ける。
「ちゃんと話そう。三人で。
誤解は、顔見て話さんと解けへん」
「……ええ。そうしましょう」
リーゼは、深く頷いた。
⸻
その夜、モモは一人、夜道を歩いていた。
(……リーゼとミレイさん、待ってる)
約束の店は、街の外れにある小さな食事処。
人通りは少ないが、治安が悪いわけではない。
――はずだった。
(話って何だろう。
私が……行っていいのかな)
ふと、足が止まる。
ヒロの顔が浮かぶ。
商談に向かう背中。
最近、少し遠く感じる横顔。
(私は……必要なのかな)
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……考えすぎ、だよね」
自分に言い聞かせるように呟き、再び歩き出した、その時。
――視線。
背後から、はっきりとした“意図”を感じた。
振り返ろうとした瞬間、
口元を塞がれ、視界が暗転する。
「――っ!?」
声は、出なかった。
複数の腕。
手際の良すぎる動き。
(……狙われてた?)
最後に浮かんだのは、その疑問だけだった。
⸻
少し離れた路地裏。
影に紛れて、男たちが短く言葉を交わす。
「……目的の女だな」
「間違いない。ヒロのだ」
「連れていけ。騒ぎになる前に」
彼らの目に、躊躇はなかった。
それは衝動ではなく、
**計画された“実行”**だった。
⸻
そして、同じ夜。
ヒロはまだ知らない。
リーゼも、ミレイも、
そして――モモ自身も。
この夜が、
二度と元には戻れない分岐点になることを。




