闇は裏から表へ
最近、金の流れが変わった。
それは帳簿を見れば一目で分かるほど、露骨だった。
「……まただ」
男が、歯を食いしばる。
「今月も、ヒロ絡みの取引が増えてる」
「うちを通らずに、だ」
別の男が苛立ちを隠さず、帳面を投げる。
「おかしいだろ」
「今まで、この街の金は――」
「俺たちのところに、自然と集まってきた」
それが、止まった。
理由は単純だ。
ヒロの取引は、
・条件が明確で
・成功率が高く
・無駄がない
商人たちは、感情ではなく数字で動く。
結果、
金は“正しい場所”へ流れ始めた。
――つまり、彼らから奪われた。
「……このままじゃ」
「俺たちは、干上がる」
沈黙が落ちる。
誰も否定しなかった。
ヒロを排除する理由は、もう十分すぎるほど揃っていた。
「だが、直接やるのは悪手だ」
年嵩の男が、冷静に言う。
「今のヒロは、街の“成功例”だ」
「下手に潰せば、反感を買う」
「じゃあ、どうする?」
そこで、誰かが言った。
「……支えを壊せばいい」
「支え?」
「あいつの商売の“核”だ」
話は、自然とそこに流れ着いた。
「ヒロは、冷静に見えて」
「実は、かなり偏ってる」
「守るものがある商人は、弱い」
「特に――」
言葉が、慎重に選ばれる。
「女だ」
空気が、わずかに粘つく。
「前まではいつも一緒にいたな」
「最近は商談に連れてこなくなったらしい」
「大事にしてる証拠だな」
誰かが、低く笑った。
「……居なくなったら、どうなる?」
その問いに、答えは返らない。
だが、全員が同じ想像をしていた。
・判断が鈍る
・取引が乱れる
・数字が狂う
そして――
「自分を責める」
「守れなかったと、思い続ける」
「商売どころじゃなくなる」
年嵩の男が、淡々とまとめる。
「女を傷つける必要はない」
「“消える”だけでいい」
「行き先が分からなければ、なお良い」
その言葉が、
この計画の本質だった。
「富を取り戻す」
「街の流れを、元に戻す」
「そのための――」
「調整だ」
モモの名前は、最後まで出なかった。
彼らにとって、
彼女は最初から “人”ではなかった。
ただの――
ヒロを壊すための、最適な部品。
会話は、そこで終わる。
決定だけが残った。
まだ、何も起きていない。
けれど――
もう、転がり始めている。




