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動き出す闇

商会が休みの日は、人の流れもどこか緩い。

露店の声も、いつもより軽い。


通りの向こう。

茶店の外壁の影に、二人の男がいた。


「……あれか?」


低い声。


「間違いない。ヒロだ」


男の一人が、目を細める。


視線の先では、

ヒロとモモが向かい合って座っている。


笑っている。

静かに、穏やかに。


「あの目、随分と大事にしてるじゃないか」


「噂通りだな」


もう一人が、鼻で笑った。


「商会の連中は数字だの利益だの言ってるが……

 あいつの弱点は、あれだろ」


二人の視線は、

自然とモモへと向かう。


陽の下で、目を引く存在。

守られることに慣れていない、無防備さ。


「……一度だけ、見たことがある」


「どこで?」


「商談の席にいた。

 場違いなくらい、綺麗だった」


その言葉に、

もう一人が小さく息を吐く。


「なるほどな」


少しの沈黙。


「ヒロを直接潰すのは、難しい」


「だから?」


「だから――」


男は、唇を歪めた。


「大事なものを、奪えばいい」


「……」


「金でも、信用でもない」


視線は、まだモモに向けられている。


「“あれ”を失った時、

 あいつが同じ顔で商売できると思うか?」


風が吹いた。


茶店の前で、

モモが何か言って、ヒロが困ったように笑う。


何も知らない顔。


「準備は、慎重にな」


「わかってる」


「表じゃなく、裏でだ」


男たちは、視線を切る。


人混みに紛れながら、

一人が最後に呟いた。


「――いい休日だ」


その言葉は、

祝福ではなかった。


その頃、ヒロはまだ知らない。


この街で、

「数字」ではないものが、

値踏みされたことを。


そしてモモは、

背中に向けられた視線に、

気づくこともなかった。

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