成功の裏に見えるもの
商会の奥の部屋は、いつもより少し騒がしかった。
「また、ヒロの判断が当たったらしい」
「仕入れの読み、外したことないんだと」
そんな声が、壁越しに漏れてくる。
ヒロは資料を抱えたまま、廊下を歩いていた。
視線が、妙に集まる。
(……見られてるな)
【周囲の評価】
好意:68%
警戒:31%
数字は、まだ安定している。
部屋に入ると、ミレイがすでに待っていた。
「お、来た来た」
「今日の商談、相手ちょい厄介やで」
「強気?」
「強気やな」
「ヒロの名前出した途端、顔つき変わった」
ヒロは苦笑した。
「それ、いい意味?」
「半々やな」
ミレイは肩をすくめる。
「頼りにしてる人間も多いけどな」
「目立ちすぎるんは、どこでも厄介や」
その言葉に、ヒロは頷いた。
(……分かってる)
成功は、必ず誰かの居場所を削る。
【交渉主導権維持】
成功率:87%
【相手の出方を待つ】
成功率:69%
ヒロは、前に出る選択をした。
商談は、問題なく終わった。
条件はほぼこちらの思惑通り。
だが――
部屋を出た直後、
ヒロは背後で交わされる小声に気づく。
「……あいつ、調子に乗ってないか?」
「運が良すぎるだろ」
「誰かの後ろ盾があるんじゃ?」
足が、一瞬止まる。
(……運、か)
【気にしない】
成功率:92%
【振り返る】
成功率:11%
ヒロは、振り返らなかった。
(数字は、嘘をつかない)
それだけを、信じて歩く。
外に出ると、夕方の風が冷たかった。
ミレイが並んで歩く。
「なあヒロ」
「最近、モモ元気か?」
その名前に、ヒロの心臓がわずかに跳ねた。
「……普通だと思う」
「そっか」
ミレイは、それ以上聞かなかった。
だが、その沈黙が逆に重い。
(……俺、ちゃんとやれてるよな)
商売も。
仲間も。
守ると決めたものも。
【現状維持】
成功率:85%
表示は、まだ高い。
けれど――
数字に映らない温度差が、
静かに広がり始めていた。
ヒロは気づかないふりをして、
宿への道を歩き出す。
この街が、
もう安全な場所ではなくなりつつあることを、
まだ知らないまま。




