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ツンツンな魔術師、ヒロの心を照らす

次の街までは、半日ほどの距離だった。


ガルドの足取りは軽く、

俺は少し後ろを歩く。

 

前に出る必要はない。

後ろから全体を見る方が、落ち着く。


街門が見えた頃、

視界に新しい数値が浮かんだ。


高魔力反応:友好 62%

      敵対 38%


「……魔術師か」


ガルドが振り返る。


「分かるのか?」


「……なんとなく」


正確には、高い魔力を感知すると、魔力の色や匂い、雰囲気からその魔力の持ち主が俺にとって敵なのか味方なのかが見えてくる。



街の掲示板前で、一人の女性が依頼書を見ていた。いかにも魔術師と分かる格好。


銀色に近い淡い髪。

無駄のないローブ。

視線は紙面に落ち、周囲をほとんど気にしていない。


話しかける:成功率 58%

無視する:安定度 100%


……迷う。


初対面で話しかけるなんて、「ナンパ」じゃないか。

そんな事、出来るわけがない…。


と、悩んでいたら、ガルドがすでに声をかけていた。

「よう、嬢ちゃん。護衛が要るなら――」


女性は顔を上げ、一瞬だけ俺を見る。

しきし、なぜか数値が何も表示されない。


「……不要です」

静かな声だった。


「ですが」

そう言って、もう一度だけ俺を見る。


「そちらの方が同行するなら、話は別です」

ガルドが目を丸くする。


笑いながら声をかけられた。

「ヒロ…モテる男はツラいな」


「…いや、いやいや。なんで?」


本当に、理由が分からなかった。



彼女の名は、リーゼ。

魔術師で、研究と実地を兼ねた旅をしているらしい。


結局、パーティーを組む形で依頼をこなした夜、

「あなた、戦い方が奇妙ですね」


焚き火のそばで、リーゼは淡々と言った。

「前に出ない。でも、戦況を支配している」


俺は視線を逸らす。


弁明:成功率 41%

沈黙:関係維持率 76%


沈黙を選ぶ。


リーゼは、それ以上追及しなかった。


その距離感が、不思議と心地よかった。



翌日、小規模な魔物の群れと遭遇した。


前衛はガルド、リーゼは後方で詠唱。


俺は、いつもの位置で全体を見渡していた。


リーゼ詠唱継続:成功率 83%

ガルド負傷:軽傷 24%

介入:戦況変動率 高


「……三秒、待て」


俺の小さな声に、

リーゼの詠唱が止まらない。


だが、

魔力の流れが“わずかに”変わった。


結果、魔法は最短で放たれ、敵は一掃された。


戦いの後、リーゼがこちらを見た。


「……やはり、聞こえているのですね」


「何が?」


「あなたの言葉。根拠はないのに、正しい」


何か見透かされている気がして、リーゼの事を見られなかった。



夜。


リーゼは焚き火の向こうで、魔導書を閉じた。


「ヒロ」


名前を呼ばれて、少しだけ肩が強張る。


「あなたは、自分を過小評価しすぎです」


否定:成功率 67%

話題転換:安全度 82%


どちらも、選ばなかった。


リーゼは続ける。


「あなたは、誰かを生かす選択ができる人です」


その言葉に、数値は浮かばなかった。

正直、これからどうしたら良いのか分からなかった。



今まで他人への興味など全く持たなかったリーゼ。

ヒロへの気持ち、芽生えた感情が、恋だということに。


そして俺も、気づかないふりをしている。


ヒロの心に太陽はまだ昇らない。

だからこそ、久々にヒロの心を照らしたリーゼという星の光がヒロには眩しく見えた。

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