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成功に根拠は必要か

「今や、ヒロ」


ミレイの声に、ヒロは視線だけで応えた。

言葉はいらない。


人の流れが、わずかに変わる。

通りの奥から来る足音の数。

立ち止まる視線の癖。


――ここ。


ヒロは迷いなく札を返した。

一段階、高い価格。


「強気やなぁ」


「……売れます」


根拠がある。

勘じゃない。


数分後、露店の前は人だかりになり、

商品はきれいに消えていた。


「はい、完売。今日もやな」


ミレイが満足そうに伸びをする。

ヒロは息を吐いた。


(……また、成功)


胸の奥に、じんわりとした熱が広がる。


その感覚は――

懐かしかった。



――小学生の頃。


勉強は、特別頑張らなくても出来た。

先生は「神童だ」と言い、

親は誇らしそうに笑った。


運動も、気づけば周りより速かった。

成長期が、少し早く来ただけなのに。


(なんで出来るのか)


当時のヒロには、分からなかった。

でも、出来ること自体は事実だった。


周囲は勝手に理由をつける。


「才能がある」

「センスが違う」


その言葉を、

ヒロは否定も肯定もできないまま受け取った。



――高校。


周りは、同じくらい出来る連中ばかりだった。

努力をしている者。

明確な目標を持つ者。


(……あれ?)


同じようにやっても、勝てない。

理由が、分からない。


かつて自分を支えていた「出来てしまう感覚」が、

どこにもなかった。


成績は落ち、

運動でも通用しなくなり、

気づけば――立ち止まっていた。


(なんで、出来ない?)


理由が分からない成功は、

理由が分からない失敗に耐えられなかった。



「ヒロ?」


モモの声で、現実に引き戻される。


「もう終わった?」


「ああ。問題ない」


自然に出た言葉だった。


今は、違う。


(今は……分かってる)


なぜ成功するのか。

どこを選べば失敗しないのか。


確率が、示してくれる。


(根拠がある)


だから、これは――

あの頃とは違う。


ミレイが肩を叩く。


「ヒロと組むと、無駄が無いわ。

失敗せぇへん人の動きや」


「……そうですね」


否定しなかった。


胸の奥に、確信が芽生える。


(俺は、間違ってない)


成功している理由を、

自分で説明できる。


それが、何より心地よかった。


モモが少し微笑む。

その表情を見て、ヒロは満たされる。


(守れてる)


危険な戦いをせず、

確実な道を選び、

安定した結果を積み重ねる。


(これが、一番いい)


リーゼは、少し離れた場所でその様子を見ていた。

ミレイと並ぶヒロの背中を見つめ、

わずかに視線を落とす。


だが、ヒロは気づかない。


彼の意識は、

「根拠のある成功」に深く浸かっていた。


(今度こそ、折れない)


(今度こそ、失敗しない)


その思いが強くなるほど、

ほんの小さな違和感は、音もなく沈んでいった。


モモの手を、無意識に引き寄せながら。


(大丈夫だ)


(全部、上手くいってる)


そう信じたまま――

ヒロは、次の一手を疑わなかった。

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