成功に根拠は必要か
「今や、ヒロ」
ミレイの声に、ヒロは視線だけで応えた。
言葉はいらない。
人の流れが、わずかに変わる。
通りの奥から来る足音の数。
立ち止まる視線の癖。
――ここ。
ヒロは迷いなく札を返した。
一段階、高い価格。
「強気やなぁ」
「……売れます」
根拠がある。
勘じゃない。
数分後、露店の前は人だかりになり、
商品はきれいに消えていた。
「はい、完売。今日もやな」
ミレイが満足そうに伸びをする。
ヒロは息を吐いた。
(……また、成功)
胸の奥に、じんわりとした熱が広がる。
その感覚は――
懐かしかった。
◆
――小学生の頃。
勉強は、特別頑張らなくても出来た。
先生は「神童だ」と言い、
親は誇らしそうに笑った。
運動も、気づけば周りより速かった。
成長期が、少し早く来ただけなのに。
(なんで出来るのか)
当時のヒロには、分からなかった。
でも、出来ること自体は事実だった。
周囲は勝手に理由をつける。
「才能がある」
「センスが違う」
その言葉を、
ヒロは否定も肯定もできないまま受け取った。
◆
――高校。
周りは、同じくらい出来る連中ばかりだった。
努力をしている者。
明確な目標を持つ者。
(……あれ?)
同じようにやっても、勝てない。
理由が、分からない。
かつて自分を支えていた「出来てしまう感覚」が、
どこにもなかった。
成績は落ち、
運動でも通用しなくなり、
気づけば――立ち止まっていた。
(なんで、出来ない?)
理由が分からない成功は、
理由が分からない失敗に耐えられなかった。
◆
「ヒロ?」
モモの声で、現実に引き戻される。
「もう終わった?」
「ああ。問題ない」
自然に出た言葉だった。
今は、違う。
(今は……分かってる)
なぜ成功するのか。
どこを選べば失敗しないのか。
確率が、示してくれる。
(根拠がある)
だから、これは――
あの頃とは違う。
ミレイが肩を叩く。
「ヒロと組むと、無駄が無いわ。
失敗せぇへん人の動きや」
「……そうですね」
否定しなかった。
胸の奥に、確信が芽生える。
(俺は、間違ってない)
成功している理由を、
自分で説明できる。
それが、何より心地よかった。
モモが少し微笑む。
その表情を見て、ヒロは満たされる。
(守れてる)
危険な戦いをせず、
確実な道を選び、
安定した結果を積み重ねる。
(これが、一番いい)
リーゼは、少し離れた場所でその様子を見ていた。
ミレイと並ぶヒロの背中を見つめ、
わずかに視線を落とす。
だが、ヒロは気づかない。
彼の意識は、
「根拠のある成功」に深く浸かっていた。
(今度こそ、折れない)
(今度こそ、失敗しない)
その思いが強くなるほど、
ほんの小さな違和感は、音もなく沈んでいった。
モモの手を、無意識に引き寄せながら。
(大丈夫だ)
(全部、上手くいってる)
そう信じたまま――
ヒロは、次の一手を疑わなかった。




