新たな出会い
「…で?」
湯気の向こうから、ヒロは三人を順に見た。
「……なんで、こうなった?」
広めの貸切風呂。
岩造りの浴槽に、
ヒロ、モモ、リーゼ、そして…新しい女。
「細かいこと気にしたらあかんて」
女は湯をばしゃりと掻き分け、笑った。
「ほら、新しいパーティ結成記念やろ?
裸の付き合いっちゅーやつや」
「いや意味が分からない」
ヒロが即座に返すと、
モモは肩まで湯に沈みながら視線を泳がせる。
「……ミレイさん、ちょっと強引すぎるよ……」
「ええやんええやん。
どうせそのうち一緒に風呂入る仲になるんやし」
「どんな仲よ…。」
リーゼは完全に固まっている。
耳まで赤く、視線は一点を彷徨ったまま。
「わ、私は……そ、その……
心の準備が……!」
「ほら見てみ。
一番意識してるん、リーゼちゃんやん」
「ち、違っ……!」
湯気が濃くなった。
ヒロは額を押さえる。
(……どうしてこうなった)
…
…
…
数時間前。
商業区の外れ、露店が集まる通りで、
ヒロはモモと並んで歩いていた。
「今日も、結構売れたね」
モモが控えめに笑う。
「……まあ、運がよかっただけだ」
ヒロはそう答えた。
(運、か……)
内心では、
“選ばなかった選択肢”の成功率が頭に残っていたが、
それを口にすることはない。
そこへ――
「兄ちゃん」
軽い声が飛んできた。
振り返ると、
腰に手を当てた女が立っていた。
「さっきから見てたんやけどな、
あんた、売り方うまいわ」
「……?」
「値段の付け方、仕入れの数、売るタイミング。
全部、勘ちゃうやろ?」
ヒロは言葉に詰まる。
ミレイはにっと笑った。
「安心せえ。
秘密聞き出そうなんて思ってへん」
「ただな……」
彼女は人差し指を立てる。
「この街で儲けたいんやったら、
うちと組まへん?」
…
…
…
そして現在。
「仕事上のパートナーにはなったけど…
なんで風呂?」
ヒロが呻くように言うと、
ミレイは胸を張った。
「信用や」
「は?」
「商売も仲間も、信用が一番やろ?
服着たままやと、どうしても腹の探り合いになる」
モモは納得したような顔で小さく頷いた。
「なるほど」
「な?」
リーゼはまだ視線を逸らしたまま、
小さく息を吸う。
「……ヒロが、信頼しているなら……」
「いやいや!?全然納得できないでしょ!」
「細かい!
綺麗な女性3人と混浴なんて、
幸せ者やな、お客さん」
ミレイが湯を叩いて笑う。
「ほら、こうして同じ湯に浸かってたら、
変な裏切りなんて出来へんやろ?」
ヒロは反論しかけて――やめた。
(……確かに)
この女は、
数字も、確率も、力も知らない。
それでも、
“人を見る目”だけは異様に鋭い。
「……分かった」
ヒロは短く言った。
「商売の話は、あとでちゃんとする」
ミレイは満足そうに頷く。
「よっしゃ。
ほな改めて――」
「今日からやな」
湯気の向こうで、
新しい関係が、静かに形を作り始めていた。




