別れ
朝靄が、街道に薄く残っていた。
宿の前で、ガルドは自分の大剣を背負い直す。
いつもと同じ仕草。
いつもと同じ無骨な背中。
「ここで別れだな」
それだけ言って、ガルドは振り返った。
ヒロは一歩前に出る。
言うべき言葉は、もう決まっていた。
「武を、極めるんだろ?」
「ああ」
短く、迷いのない返事。
「俺はな」
ガルドは空を一度見上げてから、続けた。
「強くなる理由を、まだ探してる」
「守るためかもしれないし」
「壊すためかもしれない」
「だから、遠回りする」
ヒロは頷いた。
「俺は……」
少しだけ言葉を選ぶ。
「モモを守る」
隣に立つモモは、何も言わずに微笑んだ。
「それと」
ヒロは続ける。
「戦う以外の力も、使ってみる」
ガルドは鼻で笑った。
「お前らしい」
それから、ちらりとリーゼを見る。
「リーゼ」
「は、はいっ」
少しだけ声が裏返る。
「お前は、ヒロと行くんだろ?」
「……え、ええ」
「なら」
ガルドは真面目な顔で言った。
「ヒロっ!
リーゼの事もちゃんと大事にしろ」
ヒロは一瞬きょとんとした。
「え? ああ、もちろん」
仲間として、という響きしかない。
だが――
「ち、ちがっ……!」
リーゼが、慌てて手を振った。
「わ、私は、その……っ」
「そ、そういう意味じゃ……!」
顔が、みるみる赤くなる。
「……?」
ヒロはますます分からない。
モモは、ほんの一瞬だけリーゼを見て、
何も言わず、視線を逸らした。
ガルドも、その空気に気づかない。
「まあ、仲良くやれ」
それだけ言って、踵を返す。
「じゃあな」
重い足音が、道の向こうへ遠ざかっていく。
ヒロは、背中に向かって声を投げた。
「またな、ガルド」
返事はない。
ただ、片手がひらりと上がった。
やがて、その背中が霧にとける。




