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兆し。太陽の日が届く

三日目の朝。

宿の部屋は、静かすぎる。


呼吸はある。

脈も、確かにある。


それなのに――

目を覚まさない。


「……ヒロ」


名を呼んでも、

返事はない。


リーゼは、もう何度も首を振った。

回復術は効いている。

傷も、疲労も、異常はない。


それでも――

「これ以上は……無理」


その言葉が、

胸に残っている。


(無理、って……)


モモは、ベッドの脇に座ったまま、

ヒロの手を見つめる。


大きな手。

少し、荒れている。


戦った痕が、

まだ消えきっていない。


(……私のせい、だよね)


考えないようにしても、

思考はそこへ戻る。


身体を奪われたこと。

間に合わなかったこと。


「でも……」


声に出すと、

少しだけ、息が楽になる。


「来てくれた」


それだけは、

事実だった。


ヒロは、来た。

確率も、正解も、保証もない場所へ。


それを――

自分は、ちゃんと見ていた。


モモは、そっとヒロの手に触れた。


その瞬間。


――微かに。


熱が、流れた。


「……え?」


驚いて、手を離す。


錯覚。

そう思った。


もう一度、触れる。


今度は、はっきりと分かった。


ヒロの身体から、

“何か”が、漏れている。


力じゃない。

魔力でもない。


もっと、

弱くて、

脆くて、

でも――消えそうなもの。


(……これ)


胸の奥が、

きゅっと締めつけられる。


現実世界の記憶が、

ふと、よぎった。


疲れ切った客。

壊れそうな心。

触れるだけで、泣き出す人。


理由なんて、分からなかった。


ただ――

「大丈夫だよ」

そう言いながら、

そばにいただけ。


それだけで、

少し、楽になっていた人たち。


(……私)


(ずっと、そうだった)


モモは、深く息を吸う。


祈りじゃない。

魔法でもない。


ただ、

逃げないと決める。


ヒロの手を、

今度は両手で包み込んだ。


「……無理しないで」


誰に向けた言葉か、

自分でも分からない。


すると。


ヒロの呼吸が、

ほんの一瞬だけ、深くなった。


それだけ。


何も起きない。

光も、音も、表示もない。


でも――

確信が、残った。


(……届いてる)


治してはいない。

救ってもいない。


ただ、

触れているだけ。


それでいい。


今は、

それしか出来ない。


モモは、

手を離さなかった。


知らない力が、

知らない形で、

静かに、動き始めていることを――


まだ、

言葉に出来ないまま。

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