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闇に光はまだささない

ヒロは、眠ったままだ。


ベッドの横に座りながら、

モモはその事実を、何度も心の中で繰り返していた。


胸は上下している。

呼吸も、脈も、ちゃんとある。


リーゼの回復術で、傷はすべて消えていた。


それなのに。


「……起きないね」


自分の声が、ひどく遠く聞こえた。


返事はない。


当たり前だ。

ヒロは、目を閉じたままなのだから。


(助かった……はず、なのに)


モモは、ぎゅっと指を握りしめる。


身体を奪われた事実。

恐怖。

屈辱。


それらは確かに残っている。


けれど――

それ以上に、頭から離れない光景があった。


倒れ込んできたヒロの身体。


あまりにも軽くて、

あまりにも力がなくて。


抱き留めた瞬間、

「この人、壊れてしまったんじゃないか」と思った。


(……私のせいだ)


そう考えた瞬間、

胸の奥が、ひどく痛んだ。


ヒロは、勝った。


皆がそう言う。


敵は倒され、

私はここにいる。


だから「成功」なのだと。


でも――

じゃあ、これは何?


目を覚まさないヒロは。


この静けさは。


リーゼが、そっと声をかける。


「……身体的には、問題はありません」


少し、言葉を選ぶような間。


「ただ……」


その続きを、モモは聞きたくなくて、

それでも目を逸らせなかった。


「私の回復は、壊れたものを“元に戻す”だけです」


リーゼは、ヒロを見つめたまま続ける。


「無理やり引き出された力や、削られたものまでは……戻せない」


削られたもの。


その言葉が、胸に突き刺さる。


(……じゃあ)


(ヒロは、何を削ったの)


モモは、答えを知るのが怖くて、

でも、目を逸らせなかった。


ヒロは、きっと思っている。


――間に合わなかった、と。


自分が来るのが遅れたせいで、

私が傷ついたのだと。


でも。


(違う)


モモは、心の中で首を振る。


間に合ったかどうかなんて、

私には分からない。


ただ一つ、分かっているのは。


ヒロが、

「私を助けるために壊れた」

という事実だけだった。


守られた、とは思えなかった。


救われた、とも。


ただ――

代わりに、失われたものを見てしまった。


それが、怖かった。


「……ヒロ」


小さく名前を呼ぶ。


返事はない。


それでも、モモはそっと手を伸ばし、

ヒロの手を握った。


温かい。


生きている。


それだけで、胸が詰まる。


(お願い)


(目を覚まして)


(……でも)


(もう、こんな事はしないで)


自分でも、矛盾した願いだと思う。


助けてほしい。


でも、壊れてほしくない。


その両方を望むのは、

きっと、ひどく身勝手なのだろう。


それでも。


モモは、ヒロの手を離さなかった。


この人が払った代償を、

見なかったことには、できなかったから。

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