見えた。この世界での俺の生きる道。
焚き火の夜は、思っていたより静かだった。
ガルドは豪快に肉を焼き、酒を飲み、笑っていたが、
それ以外の者たちは口数が少ない。
俺は少し離れた位置で座った。積極的には話しかけず、話しかけてほしいオーラは極力抑えて…でも心の中では話しかけてほしい気持ちも少しある。我ながら面倒臭い性格だ。
それは突然やってきた。森の奥に目を向けた瞬間、あの数値がまた目の前に広がった。
森へ入る:生存確率13%
周りへ知らせる:生存確率60%(どんどん減少している。)
「……来る」
思わず声が出た。
ガルドが顔を上げる。
「ん? 何がだ」
説明する時間はない。
俺の視界には、さらに文字が重なった。
魔物・ゴブリン集団
推定数:5
正面衝突:勝率 41%
陣形変更:勝率 66%
不意打ちを受ける:壊滅率 72%
「……囲まれる」
俺は立ち上がり、焚き火から一歩下がった。
「火を背に。森を正面にしない方がいい」
ガルドは一瞬だけ俺を見て、
すぐにニヤリと笑った。
「ん?何かみえてるみたいだな。お前の運に賭けてみるか」
理由は聞かれなかった。信じてくれた事が嬉しかった。
頭をフル回転させる。ここで選択は間違えられない。
⸻
ゴブリンは、弱い。
だが、数が揃えば話は別だ。
ガルドが前に出る。
盾を構え、雄叫びを上げる。
目の前に様々な文字と確率が次から次へ映し出される。頭の処理が追いつかなくなりそうだ…。でも止めちゃ駄目だ。
ガルド前進:生存率 89%
側面からの奇襲:発生確率 54%
「……左、来る」
俺の声は小さかったが、
ガルドは即座に動いた。
斧を振り抜き、
飛び出したゴブリンを叩き伏せる。
一体、二体。
だが、数値が跳ね上がる。
ガルド深追い:致命傷率 38%
後退指示:戦況安定率 71%
「追うな!」
叫んだ瞬間、
俺自身が一番驚いた。
ガルドは、止まった。
その刹那、
背後から飛びかかったゴブリンの刃が、
空を切る。
「……助かったぜ」
ガルドの声が、少しだけ低くなった。
⸻
戦いは、終わった。よくある漫画のように、チートスキルを持った勇者パーティーが派手に振る舞ったわけではなかったが、誰も怪我をせず、倒れる事なく、最悪な事態にならずに終わった。負けなかった。
焚き火の前で、ガルドが俺の肩を叩く。
「お前、強くはねえな」
俺は黙って頷いた。
「でもよ。お前がいたから俺たちは生き残れた。ありがとよ。」
と言いながら、またあの強い酒を注いできた。
アルコールのせいなのかなんなのか、胸が熱くなった。
⸻
夜が深まり、
皆が休みに入った頃。
俺は一人、数値を見つめていた。
このパーティに留まる:生存率 78%
単独行動に戻る:生存率 43%
以前なら、
迷わず一人を選んでいただろう。
だが、
あの戦いの最中にずっと守ってくれたガルドの背中を思い出す。
「……一人でいる方が、安全とは限らないか」
俺は、ガルドに一緒に連れてって欲しいと言う決心をした。
それは、
確率的には“正解”だったのかもしれない。
でも、
初めて「誰かと一緒に生きる」という選択を、
俺自身の意志で選んだ気がした。
焚き火の残り火が、
静かに揺れていた。




