太陽の笑顔を信じて
身体が、重い。
《勇者の矛盾》が静まるにつれて、
無理やり引き出されていた力が、一気に抜け落ちていく。
足元が、ぐらりと揺れた。
「……くそ」
壁に手をつき、呼吸を整える。
全身が、鉛のようだった。
(まだ、倒れるわけにはいかない)
――行かなきゃいけない。
ヒロは、奥の扉を見る。
モモが、いる。
それだけで、思考が一点に収束した。
歩き出す。
一歩ごとに、意識が遠のきそうになる。
確率表示が、ちらつく。
【行動:前進】
成功率:48%
低い。
それでも、止まらない。
廊下は、異様に静かだった。
先ほどまでの暴力の気配が、嘘のように消えている。
扉の前に立った瞬間、
ヒロは、嫌な予感をはっきりと自覚した。
(……遅かった)
ノブに手をかける指が、わずかに震える。
それでも――開けた。
部屋の中は、薄暗い。
香の匂い。
乱れたシーツ。
そして、ベッドの上に座るモモ。
ヒロは、一瞬、言葉を失った。
「……ヒロ?」
弱々しい声。
でも、確かに、彼女のものだった。
「……来たんだね」
責める響きは、どこにもない。
ヒロは、喉が詰まった。
「……ごめん」
それだけしか、言えなかった。
間に合わなかった。
守れなかった。
自分で、自分を許せない。
モモは、ゆっくり立ち上がる。
足取りは不安定で、それでもヒロに近づいた。
「……違うよ」
小さく、首を振る。
「来てくれた」
それだけで、十分だと言うように。
「ヒロは……来てくれた」
その瞬間。
張り詰めていた糸が、切れた。
ヒロの視界が、白く滲む。
「……っ」
膝が、折れた。
倒れ込む寸前、
柔らかい感触が、身体を受け止める。
モモの腕だった。
「……無理しないで」
震えているのは、彼女の方だった。
ヒロは、かろうじて言葉を絞り出す。
「……俺……勝った、のに」
「うん」
「なのに……」
「うん」
モモは、何も否定しない。
ただ、抱きしめる。
ヒロの意識は、そこで途切れた。
最後に感じたのは、
胸元の温もりと、静かな鼓動。
――ああ。
(間に合わなかったって、思ってた)
(……でも)
(それでも、俺は)
(ここに来た)
暗闇が、優しく覆いかぶさる。




