捨てる選択、拾う選択。
身体は勝手に動いていた。
走り出していた。
ガルドとリーゼは、
何も言わず、その背中に続いた。
階段を下りる。
足音が、やけに大きく響く。
(……早い)
ガルドは思う。
ヒロの歩調が、いつもより速い。
迷いがない。
それでいて――
無謀でもない。
「ヒロ」
リーゼが呼ぶ。
「どこへ?」
ヒロは、
振り返らない。
「分からない」
即答だった。
「でも」
「まだ近い」
リーゼは、
一瞬だけ目を細めた。
(……近い、ですって?)
情報は、ない。
痕跡も、ない。
それなのに、
ヒロの声には確信が混じっている。
ガルドが、
低く笑った。
「そこは相変わらずだな」
「説明が足りねぇ」
「……悪い」
ヒロは、
一瞬だけ口元を歪める。
それは、
いつもの“計算している顔”じゃなかった。
もっと――
人間臭い。
「でも」
ヒロは続ける。
「今は」
「考えてる時間が、惜しい」
ガルドの足が、
わずかに止まる。
(……考えない、だと?)
あのヒロが。
常に一歩引いて、
全体を見て、
判断してきた男が。
リーゼも、
同じ違和感を覚えていた。
ヒロの横顔。
眉は寄っている。
歯を、噛みしめている。
――焦っている。
だが、
崩れてはいない。
「ヒロ」
リーゼが、静かに言う。
「あなた」
「何か、決めたのね」
ヒロは、
少しだけ沈黙してから答えた。
「……分からない」
それから、
言葉を選ぶように続ける。
「でも」
「同じやり方じゃ、ダメだと思った」
ガルドが、
はっきりと眉をひそめる。
「同じやり方?」
ヒロは、
拳を握る。
「俺は」
「今まで、外さない選択をしてきた」
「でも」
「それで――」
言葉が、
一瞬、詰まる。
「……モモを、失った」
その声は、
低く、重かった。
ガルドは、
もう笑わなかった。
リーゼも、
何も言えない。
ヒロは、
顔を上げる。
その目は――
怯えていない。
迷っている。
それでも、
逃げていない。
(……ああ)
ガルドは、
確信する。
(こいつ)
(変わろうとしてやがる)
リーゼも、
同じことを感じていた。
ヒロは、
誰にも説明しない。
自分が何を見ているのか。
何を捨てようとしているのか。
けれど――
その背中が、もう答えだった。
「……行くぞ」
ガルドが言う。
「取り返す」
リーゼも、
小さく頷く。
「ええ」
「迷っている暇はないわ」
三人は、
宿を飛び出す。
朝の街。
まだ、人は少ない。
確率は、
ヒロの視界に浮かんでいる。
だが――
彼は、それを見ない。
初めて。
自分の足で、
自分の感覚で、
走り出す。
それが、
正しいかどうかなんて――
今は、
どうでもよかった。
ただ一つ。
モモだけを見る。




