表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/27

ヒーロー?、初めて登場

「……たすけ、て……」


声にした瞬間、

自分でも驚くほど、弱い声だった。


壁は薄い。

隣の生活音は、はっきり聞こえる。


――なのに。


返事が、ない。


(……だめ、か)


時間が、伸びる。


一秒が、

やけに長い。


男は、動かない。

余裕のある顔で、こちらを見ている。


「無駄だよ。こんな時間に――」


その言葉の途中で。


ガシャァン!


割れる音。


ガラスの砕ける音が、

夜を引き裂いた。


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


ベランダ側。

割れた窓。


そこから――

人影が、飛び込んできた。


「……動くな!」


声が、裏返っている。


明らかに、慣れていない声。


手に持っているのは、

フライパンと、金属バット。


ちぐはぐで、

必死で、

笑ってしまいそうなくらい不格好で。


――でも。


その顔を見た瞬間。


「ヒロ?」

「……えっ…モモ?」


お互い、同時だった。


一瞬、

状況を忘れて、

ただ、驚いた。


(なんで……?)

(ここに……?)


男が、舌打ちする。

「なんだ、お前……」


ヒロは、一歩も下がらなかった。


震えていた。

腕も、足も。


それでも。

「……警察、もう呼んでます」


声は、小さい。

でも、はっきりしていた。


「もう、すぐ来ます」


嘘じゃない。


それは、

後で分かった。


ヒロは、

突入する前に電話していた。


震える指で、

時間を稼ぐためだけに。


男が、迷う。


その一瞬。


ヒロが、

フライパンを振り上げた。


「モモ、今!」


私の体が、

勝手に動いた。


夢中で、

彼の後ろに回り込む。

大きか見える背中。


次の瞬間、

廊下に響く足音。


警察だった。



すべてが終わって。


事情聴取も済んで。


夜が、

ようやく朝に近づいた頃。


私たちは、

ベランダで並んで座っていた。


ヒロの部屋。


……正確には、

ヒロの“隣の部屋”。


思っていたより、

ずっと狭い。


古い。

壁紙も、少し剥がれている。


(……ん?あれ?)


私は、

黙って部屋を見回した。


ヒロが、気まずそうに頭を掻く。

「……あの」


「うん?」


「……モモの前では、その……」


「うん?」


「……ちょっと、盛ってました」


思わず、笑ってしまった。


「金持ち、ですよね?」


「……はい。設定では」


「ここ、高級マンションじゃないですよ?」


「……はい。もう、会いには行けないな。

 格好悪い。」


ヒロは、

本気で申し訳なさそうだった。


(ああ……)


(この人)


見栄を張って。

嘘をついて。

私に会いに来てたんだ。


でも、助けに来た、

この優しさは知ってる。

嘘じゃない。


鍋とバットで。


警察を呼んで、

時間を稼いで。


怖くて、

震えて。


それでも、

逃げなかった。

いつものヒロ。


「……ねえ、ヒロ」


「はい」


「金持ちじゃなくても、いいよ」


ヒロは、

目を丸くした。


「え?」


「だって」


私は、

少しだけ笑った。


「今日、来てくれたでしょ」


それだけで、

十分だった。


この夜から。


私にとってヒロは、

ただの“お客さん”じゃなくなった。


仕事として会う関係のまま。


でも、

連絡は、こっそり。


いつか。


仕事じゃない場所で。


――そう、思っ「……たすけ、て……」


声にした瞬間、

自分でも驚くほど、弱い声だった。


壁は薄い。

隣の生活音は、はっきり聞こえる。


――なのに。


返事が、ない。


(……だめ、か)


時間が、伸びる。


一秒が、

やけに長い。


男は、動かない。

余裕のある顔で、こちらを見ている。


「無駄だよ。こんな時間に――」


その言葉の途中で。


ガシャァン!


割れる音。


ガラスの砕ける音が、

夜を引き裂いた。


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


ベランダ側。

割れた窓。


そこから――

人影が、飛び込んできた。


「……動くな!」


声が、裏返っている。


明らかに、慣れていない声。


手に持っているのは、

フライパンと、金属バット。


ちぐはぐで、

必死で、

笑ってしまいそうなくらい不格好で。


――でも。


その顔を見た瞬間。


「……ヒロ?」


「……モモ?」


お互い、同時だった。


一瞬、

状況を忘れて、

ただ、驚いた。


(なんで……?)


(ここに……?)


男が、舌打ちする。


「なんだ、お前……」


ヒロは、一歩も下がらなかった。


震えていた。

腕も、足も。


それでも。


「……警察、もう呼んでます」


声は、小さい。

でも、はっきりしていた。


「もう、すぐ来ます」


嘘じゃない。


それは、

後で分かった。


ヒロは、

突入する前に電話していた。


震える指で、

時間を稼ぐためだけに。


男が、迷う。


その一瞬。


ヒロが、

フライパンを振り上げた。


「モモ、今!」


私の体が、

勝手に動いた。


夢中で、

彼の後ろに回り込む。


次の瞬間、

廊下に響く足音。


警察だった。



すべてが終わって。


事情聴取も済んで。


夜が、

ようやく朝に近づいた頃。


私たちは、

ベランダで並んで座っていた。


ヒロの部屋。


……正確には、

ヒロの“隣の部屋”。


思っていたより、

ずっと狭い。


古い。

壁紙も、少し剥がれている。


(……あれ?)


私は、

黙って部屋を見回した。


ヒロが、気まずそうに頭を掻く。


「……あの」


「うん?」


「……お店では、その……」


「うん?」


「……ちょっと、盛ってました」


思わず、笑ってしまった。


「金持ち、ですよね?」


「……はい。設定では」


「ここ、高級マンションじゃないですよ?」


「……はい」


ヒロは、

本気で申し訳なさそうだった。


(ああ……)


(この人)


見栄を張って。


嘘をついて。


でも――

助けに来た。


鍋とバットで。


警察を呼んで、

時間を稼いで。


怖くて、

震えて。


それでも、

逃げなかった。


「……ねえ、ヒロ」


「はい」


「金持ちじゃなくても、いいよ」


ヒロは、

目を丸くした。


「え?」


「だって」


私は、

少しだけ笑った。


「今日、来てくれたでしょ」


それだけで、

十分だった。


この夜から。


私にとってヒロは、

ただの“お客さん”じゃなくなった。


仕事として会う関係のまま。


でも、

連絡は、こっそり。


いつか。


仕事じゃない場所で。


――そう、思った。


それが、

すべての始まり。私のヒーロー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ