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思い出す。重なる。

揺れている。


馬車の振動が、一定のリズムで体を揺らすたび、

嫌でも意識が現実に引き戻される。


(……また、だ)


逃げようとして、

「大丈夫だ」と思って、

油断した、その直後。


――同じだ。


早朝の冷たい空気。

誰もいない時間。

静かすぎるほどの静けさ。


(……前も、そうだった)


目を閉じると、

異世界の闇に、別の夜が重なった。



現実世界。


ホテルの廊下は、

妙に音が反響していた。


仕事だった。


いつも通りの、

約束された時間。

約束された場所。


「今日は、ここまでですね」


私はそう言って、

お店に電話するため、携帯を探した。


シャワーを終えた男は、

笑っていた。


妙に、落ち着いた笑顔。


「もう少し、話そうよ」


「時間なので」


それも、いつも通りのやり取り。


(あれ?携帯がない。)

背中に、違和感。


振り向いた時には、

もう遅かった。


「大丈夫。ちょっと移動するだけ

 ゆっくり寝てていいよ

 疲れてるでしょ?」


そう言って、

腕を掴まれた。


力が、強かった。


声を出そうとしたけど、

喉が固まって、音にならない。

意識が遠のく。


気づいたら、

知らないアパートの一室だった。


古い。

壁が薄い。

隣の生活音が、はっきり聞こえる。


(……まずい)


頭だけは、

冷えていた。


「ここにいれば、静かだよ

 もう仕事はしなくていい

 僕たちだけの時間」


男は、

まるで合理的な提案をするみたいに言った。


正しさを装った、

歪んだ言葉。


(……正しくない)


(これ、正しくない)


逃げるタイミングを探していた。


ドア。

窓。

男の動き。


でも――

怖かった。


体が、思うように動かなかった。


その時。


隣の部屋から、

何かが落ちる音。


続いて、

慌てた足音。


「……すみません!」


壁越しの声。


男が、舌打ちする。

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