第8話 ステラの記憶
「一体どうしたの!? 何があったって言うのッ!?」
意識を失ったステラをエルがベッドに寝かせると、アイシャが駆け寄り、ホークの肩を掴んで激しく揺さぶった。
「いや、それが……よく分からないんだ……楽しく薬草を採取していたら、突然倒れて……」
「よく分からないってどうしてよ!? それでもステラを――」
言葉を遮ったのはエルだった。落ち着いた声でアイシャをなだめる。
「副団長、団長だけじゃねぇぜ。俺もどうしてお嬢が倒れたのか分からねぇんだぜ? それに、坊の時のように熱にうなされているわけでもねぇ……もしかしたら高所での生活や移動、慣れないことをして疲れたってだけかもしれねぇ」
俺も同じ考えだった。きっと疲れだ。そうであってほしい。
「あのさ、僕が一緒にいるからお父さんたちはお仕事しててよ。何かあったらすぐに呼ぶから」
こんな時に賊に攻め込まれたら、撤退どころの話ではなくなってしまう。
今は冷静になるべき。
「そ、そうだな……メナト、頼りにしているぞ」
「ええ……ごめんなさい。あなた……取り乱してしまって」
俺はステラと同じベッドに入り、ぐっすり眠る妹の隣で魔法文字の勉強をする。
やがて眠気がくると、いつの間にか眠りについていた。
「……ちゃん、お兄ちゃん……」
頬にぺたぺたと触れる小さな手の感触で、俺は目を覚ました。
「ん? ステラ……! 気づいたのか!?」
驚いて起き上がろうとすると、ステラの指が俺の唇を塞いだ。
「声が大きいよ、お兄ちゃん。うん、今起きたの。そしたら、隣にお兄ちゃんのぬくもりがあって……安心した」
そう言いながら、ステラはいつものように俺の体にぎゅっと抱きつく。
「どうした? 疲れちゃったのか?」
「ううん……違うと思う……薬草を採取しているときね、匂いがしたの……」
「匂い?」
「うん……お兄ちゃんが倒れたときと、同じ匂い」
「俺が倒れたときの……!?」
思わず息をのむ。ステラはメナトが倒れた時、近くにいた。
「どんな匂いだった?」
「……甘くて、ツンって鼻を刺すような臭いだったの。私ね、サンセーラを見つけるのが得意でしょ? あれ、実は匂いで分かるんだ」
なるほど。
視力を失うと、残された感覚――聴覚や嗅覚などが鋭くなる傾向があるというのを聞いたことがある。
「でね、少し前にもその匂いを嗅いだの。そのときは遠くだったから、気のせいかもって思ったんだけど……多分、私が倒れた場所のあたりにヴェノムモリスが生えてると思うの……」
ステラの体が小さく震え出した。
「その匂いを嗅いだ瞬間にね、分かった気がしたの。お兄ちゃんが高熱を出したのって、もしかしてヴェノムモリスのせいなんじゃないかって。でも、お兄ちゃんが倒れたところには生えてなかったから……考えたら怖くなってきちゃって……」
俺も、薄々そうじゃないかと感じていた。
けれど、メナトは、それを認めようとしなかった。
「このこと、誰かに話した?」
「ううん……言ったらダメなの?」
「いや、お父さんとお母さんには話していい。でも……他の人には、できれば聞かれないほうがいい」
そう言いながら、メナトの記憶を必死に掘り返す。
メナトが死んだとき、何があった?
いくら思い出そうとしても、白い靄がかかって何も思い出せない。
ただ一つだけ確信がある。
メナトは何かを見た。そして、それが原因で――
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
不安そうな声に我に返る。
「ああ、大丈夫だよ。まだ夜明け前だ。少し、寝ようか」
ステラの小さな身体をそっと抱き寄せ、目を閉じた。
そして――
次に俺たちを起こしたのは、宿の外から響いた、張り裂けるような叫び声だった。
「敵襲だッ!!!」
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