第7話 薬草採取
『燃え上がれ、紅の焔よ。我が手に集い、敵を穿て――』
俺の体を淡紅の魔法文字が包み込む。
『【火槍】!』
体内で魔力を高速で巡らせ、一気に放出。
炎は槍の形を取り、目標の的へと……突き刺さった。
「よっしゃ! 【氷槍】の時よりも、ずっといい感じだ!」
手を突き上げてガッツポーズ。
隣のスカージャーは目を丸くしていた。
「ま、マジか……一日で魔法文字を浮かべて、具現化まで成功するとは……だが――」
感嘆の声は、途中で変わる。
「メナト、火魔法の特性は撃った後にある。燃え広がる炎こそが力だ。お前の【火槍】は確かに刺さったが、延焼のイメージが足りねぇ。もっと燃えることを許すイメージを持て。それに槍の形がいびつだ。しっかりイメージしろ」
村の中で言うには物騒だが、言葉の意味は理解できた。
昨日の件で無意識に火を抑えようとしていたのかもしれない。
「分かりました! じゃあ、次こそ――」
意気込んだ瞬間、コツン、と軽い衝撃が頭に落ちた。
「メナト、ここは村の中。それくらいでいいでしょ。紋章がどの属性に対応しているかを確かめたかっただけなんだから、今はそれで十分よ」
アイシャの声。
げんこつを受けた俺を横目に、スカージャーが「すんません」と頭をかいた。
「でも、その紋章は火属性にも対応していないようね。あとでお父さんに風魔法を教えてもらいましょう」
確かに、火は反応しなかった。
次は風魔法か……正直、反応する気はしない。
だが、学ぶこと自体に無駄はない。風魔法の習得過程で、新しい魔法文字を覚えられるだろうし、魔力の巡らせ方にも応用が利くしな。
ただ、少しは息抜きがしたい。
最近はずっと、この世界の文字と魔法文字、それに日本語を照らし合わせるばかりだった。
頭が詰まりそうになっていた俺は、スカージャーに頼み込んでみる。
「ねぇ、僕に槍術を教えて?」
「おっ? 確かに、メナトは槍のイメージがまだ甘いからな。槍は火・水・土・風・雷――汎用魔法のほとんどで基礎の形になる。覚えておいて損はないだろ? なぁ、副団長?」
さっきアイシャに叱られたのが堪えたのか、スカージャーは母のほうを伺う。
「ええ、そうね。でも……スカージャーって槍を扱えたかしら?」
「へへん、俺を見くびってもらっちゃ困ります……って言いたいところですが、やっぱここはヨーダっすかね。あいつ、今どこにいるんだ?」
そういえば、ヨーダの姿が見えない。
ホークたちと薬草採りに行ったわけでもなく、村の中にもいない。
小さな村をひと通り探しても見つからなかったので――
「じゃあ、ヨーダが来るまでは俺が稽古をつけてやる。訓練用の槍はないから、本物を使うぞ。重いが、そのほうが形をイメージしやすい。ただし、扱いには気をつけろよ」
スカージャーが立てかけてあった槍を渡してくる。
持ってみると……重い。
そして、長い。五メートル以上はありそうだ。
想像していたよりずっと大きく、重心が前に傾く。
子供の俺には到底扱える代物じゃない。
「こんな重いものをイメージしたら、飛ばないよ……」
「誰だって最初はそうだ。副団長の【氷槍】も、俺の【火槍】も、実際はこんなに長くなかっただろ? 今メナトに必要なのは、槍の形を掴むことだ。重さじゃない」
なるほど。
【水の紋章】で強化された【氷槍】も、こんなに長くはなかったな。
重要なのは、形を把握することなんだ。
少し槍を突く真似をしてみたが、六歳の俺には到底無理だった。
それに、スカージャーも槍の心得があるわけではないらしく、素人の俺から見ても動きがぎこちない。
だが、逆にそれが自信にもつながった。
槍術ができなくても、立派に魔法を扱えるという証明にもなったからだ。
それでも、達人の槍さばきというものを一度は見てみたい。
だが、ヨーダが姿を現したのはホークたちが帰ってきた後だったため、その機会はまた今度ということになった。
――翌朝。
「坊も薬草採りをやりたいだって? シシシッ、団長と副団長がいいって言うなら、俺は構わねぇぜ?」
エルに薬草採取への同行を願い出ると、ホークとアイシャの判断に委ねられた。
二人は顔を見合わせ、しばし黙り込む。
無理もない。ステラだけでも目が離せないというのに、そこに俺まで加わるのだ。
たとえ魔法が使えるようになったとはいえ、まだ子供。威力も実戦レベルには程遠い。
けれど、俺には心強い味方がいる。
「お兄ちゃんと一緒がいい!」
ステラのその一言で、二人の表情が緩む。
ホークもアイシャも、妹にはとことん甘いのだ。
「……分かった。だが、遠くまでは行かないからな」
こうして、ホーク、エル、ステラ、そして俺の四人で薬草採取に向かうことになった。
小さな籠を背負い、エルの背中を追って歩く。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ほら、これ見て!」
ステラが摘み取った草を誇らしげに掲げる。
「これはね、サンセーラっていう草なんだよ。傷にはこれが一番効くんだって!」
その言葉に、エルが目を細めて笑う。
「シシシッ、お嬢はすげぇな。サンセーラは滅多に見つからねぇんだぜ? それをこんなに集めるなんて……なぁ、何かコツでもあるのか?」
ステラは口元に指を当て、もったいぶるように笑った。
「うん! 実はねぇ……へへへ、どうしようかなぁ。秘密!」
ご機嫌そのものだ。
だが、確かにおかしい。
ホークも俺も、サンセーラをまったく見つけられない。
さすがに【草の紋章】を宿すエルはステラ以上に見つけていたが、紋章の恩恵もなく、目の見えないステラが、どうしてこんなに簡単に見つけられるのか。
その理由を考えようとした、その瞬間だった。
「お嬢!? お嬢ッ! どうした、しっかりしろ!」
視線を向けると、数メートル先で草を摘んでいたステラが、糸が切れたように地面へと崩れ落ちていた。
「ステラッ!」
俺もすぐにステラのもとへ駆け寄った。
けれど、最初にその小さな体を抱き上げたのはエルだった。
彼の顔には、いつもの余裕など微塵もない。
「団長! 坊! すぐに戻るぞ!」
その言葉に、ホークもすぐさま頷く。俺も後を追った。
何が起きた?
ステラのすぐそばには、俺もホークもエルもいた。
たった数秒、草を採るために視線を逸らしただけだ。
誰かが近づいて、何かを仕掛けるなんて考えられない。
……なら、魔法か?
けれど、魔法だとしたら、空から監視しているウィンが気づかないはずがない。
なのに、ステラは突然、力を失ったように倒れた。
混乱で思考がかき乱されそうになるが、エルは至って冷静だった。
「団長、坊。どうやら熱はないようだぜ。少なくとも、坊が倒れたときのような状態じゃねぇぜ」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
もしかしたら、ただの疲労なのかもしれない。
慣れない山道を、自分の足で歩き、薬草採取までしたのだ。
体力を使い果たしても不思議ではない。
そう信じたかった。
祈るような気持ちで、俺たちはステラを抱え、ビサンド村へと駆けた。
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