転
彼女のもとを訪れようと思ったのは何かの気まぐれかもしれなかった。川沿いの緑地公園に車を駐めて、彼女を埋めた場所を探した。
河原というのは殺風景で、どこを探しても彼女を埋めた場所が見つからない。あの辺りだったか、こっちだったか。わたしは彼女を探し続けた。
2時間探して、なにも見つからなかった。それは初めから彼女を埋めたことが夢だったみたいに感じた。
ああ、わたしは殺していなかった。ユウコはまだ生きていて、わたしのお金を奪い続けるんだ。これまで通りだ。なにも変わらない。
わたしは嬉しかった。
ふと、川面のきらめきがわたしの瞳を貫いた。その光は瞳だけでなく脳を貫き、わたしはよろめいた。足元の石に躓く。手をついた砂地に、アナベルの花弁があった。
「ユウコ……」
わたしは周りを見渡して誰もいないことを確認してから、手近な石でそこを掘り返した。この湿度で彼女の死体が腐乱していることはわかっていた。わかっていたが掘り返す手を止められなかった。
カツン……
石はなにか固いものに触れた。石を捨て、手で砂を払いのける。そこには――
「なにこれ……」
そこには陶器製の人形が埋まっていた。心なしかユウコに似ている、金髪の西洋人形だった。
一緒に血の染みたアナベルが埋まっている。
ここはたしかにあの夜ユウコを埋めた場所なのには違いなかった。
「ユウコ……どこに行ったの……? 生きてるの……?」
「チヨちゃん、本当の犯罪を教えてあげる」
耳元でユウコの声がした。はっきりと息遣いを感じるねばついた声だった。
わたしは恐怖よりなにより、混乱していた。
ユウコの死体がどこにもないこと。ユウコの声が耳元でしたこと。どこから来たかわからない人形。
そのときわたしはなにを思ったか、砂の中から人形を取り上げて、川の水で洗いハンカチにくるんで、小走りで車に戻った。
車に帰ると実家の母から不在着信があった。
折り返すとワンコールで母が出た。
「チヨ。最近いたずら電話が入るの。心当たりある? あんたの友達だって言うんだけど」
「名前は名乗るの? その人」
「シモジマです、って名乗る」
わたしは思わず息を呑んだ。
「チヨ、なにか知ってるの?」
「その、シモジマさんはなにか他に言ってる?」
「そうねえ……『シモジマです、チヨちゃんに言ってください。あの川で待ってるよって』」
「お母さんもうその人からの電話出ないようにして」
「どうしたのチヨ、なにか心当たりがあるの?」
「お願いだから」
「……公衆電話からなのよ」
「それでも出ないで」
わたしは半ばヒステリックに電話を切った。
ハンカチにくるんだ人形を見る。人形は薄く笑っている。
「ユウコ……なにが望みなの? 教えて」
犯罪者という重荷に限界を感じ始めていた。だからこんな幻覚を見たり聴いたりするんだ、そう思うことにした。
初めて彼女からもらったものは、わたしには重すぎた。
メンタルはボロボロで、もう何も考えられなかった。
隣からユウコの気配を感じる。
「一緒にいこう、チヨちゃん」
耳元にユウコの声を感じた。
わたしは頷いて車からおりた。
もう何も考えられない。




