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二話


「あれ、さっきの部屋だ…」


 リオの後ろからひょっこりと中を覗き込むと、そこは先ほどまでいた、紅茶を飲んでいた部屋だった。状況がよくわからず呆然とするユキを放置して、リオはすっと部屋に入ると洋服を緩め始める。


「とんだ一日だったよ、本当に。今まで感じたことのない怒りと呆れと疲労感。こんな感情を改めて教えてくれてドーモ」


 それは明らかに嫌味だ。

 顔は笑顔なのにその奥には怒り…のような少し違うような黒い感情を潜ませているような、そんな雰囲気を漂わせていた。


「ねぇ、いい加減そこ閉めていい?仕事は終わったし、もう帰りたいんだよね。“そっち”にいたいならそれでもいいけど」

「部屋に戻ります!…よっと、わわっ!?ギャフンッ!!!」


 ぼーっと立っていたユキに、そう声をかけたリオは扉を閉めようとノブに手をかけた。それに慌て部屋に入ろうとした時ユキは扉の枠に足をぶつけ、盛大に転ぶ。またも顔面をぶつけるという絶対に痛い転び方だった。


「アンタってさ、本当にドジだよね。しかもトラブルメーカーで今の所良いとこナシ」

「………そんなはっきり言わなくても。特に最後」


 そんなやりとりをしていると、ユキはあることに気づく。


「……なんか、お腹減った」

「…真顔で何言うかと思ったらそれ?この状況でよくお腹が空くね。本当にどんな神経してんだか。図太いにも程があるんじゃない?」


 棘のある言葉は尚も続くがユキはお構いなしに、ぐぅーと鳴ったお腹を摩った。


 違う世界に来たという非現実的な出来事で緊張や不安があったユキも、三大欲求の一つである食欲には勝てなかった。


「うちに帰りたいな…」


 思って当然なその感情は心の中に秘めておくつもりだったが、ぽろりと口から出てしまう。


「帰れるんじゃない?多分だけど」

「…えっ!帰れるの!?いつ?今すぐ!?」


 リオの言葉に驚き、ユキは視線を少年に向けた。ずいっと急に近寄ってきたユキに驚き、リオは手で遠ざけながら冷静に答える。


「今すぐは無理。そういうのはオレじゃなくてローゼベルトさんの分野だから。出張から戻ってくるまでは待つしかないかな」


 キラキラと期待していたその目はリオの返答に少しだけ不安の色を見せた。小さく「そっか…」と言うユキを横目に、少年は話を続けた。


「とりあえず、今日はうちに来なよ。出張って言っても予定では明日帰ってくるし」

「そうなんだ。……んぇ!?」


 あれだけ嫌悪していた相手を家にあげるのか、と少年の言動に驚き、ユキは目を見開いた。


 今までの印象から“生意気な小学生”という印象だったが少年の知らない一面に、ユキは見直したと小さな感動を覚えた。


「……いいの?」

「仕方ないじゃん。“この世界”に知り合いなんていないでしょ?他人に任せて面倒事増えたら、そっちのがヤだし」

「あ、そういう事ね」


 少年の物言いに若干イラッとしつつもそれしか手段がないか…と妥協案として、リオの家に行くことにした。


「ここから家までどのくらいかかるの?」


 現状的に仕方なくリオの家に行くことになったユキはふと尋ねる。


「…何で?」

「だって、外歩くならわたしの格好だと浮くでしょ?だからなんか羽織るものとか借りたいなって…」

「あぁ、そんな事か。別にここから出なくても行けるよ」


 リオの言葉で頭にクエスチョンマークが浮かぶ。「どうやって?」と少年に聞き返した。


「どう…って…、空間を繋げば良いだけでしょ」


 そうサラッと答える。


(え、待って。すごいサラッと言ったけど、そんな簡単にできることなの?)


 ()も当然だという顔をしたリオは、扉に顔を向けると何かを呟いて魔法を使った。少しの間だけ自分達の周りが揺れたがこれといった変化はなさそうに見え、ユキは首を傾げた。


———ガチャ


「ほら着いた」


 壁側の扉を開けるとそこは———玄関だった。そんなあり得ない状況にユキは開いた口が塞がらず、数分アホ面を晒すことになった。

 

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