二話
あまりの眩しさに瞼を閉じていたが、しばらくするとチュンチュンという鳥の声や葉が揺れる音などが聞こえてくる。危険な場所ではなさそうな音に、ユキは恐る恐る瞼を開けるとそこは公園だった。
「…えーっと、どこ……?」
あたりをキョロキョロと見回すが、見覚えがない。地べたに座り込んでいたユキのスカートは砂まみれになっていた。その場で立ち上がり、服についた砂を落とす。ここがどこなのか知るために歩こう、と右足を踏み出した時だった。
「アンタさぁ……、学習能力ってないの?」
その声に後ろを振り向くと、それはそれは大層お怒りのリオが仁王立ちしてユキの方を見ていた。背中からドス黒いオーラを放ちながら…、という嬉しくないオマケ付きだ。冷たい瞳でギンと睨まれると、砂がつくのも気にせずユキは反射的にその場に正座をした。
「…本当にさ、勘弁してくれない?『あの部屋』に入るだけでも罪に問われるのに、その上『あの扉』まで使うなんて。どんだけ罪重ねれば気が済むわけ。……牢屋に入れて欲しいの?」
「部屋に入ったのも扉が開いたのも不可抗力かと…」
「言い訳はいいから」
正座した中学生を、小学校低学年くらいの男の子が叱る姿は、側から見たら異様で、とても無様だっただろう。何人かの通行人にくすくす笑われているのが聞こえる且つ見えていて、ユキはその恥ずかしさから顔を上げられなくなった。
リオからすれば非常に不本意なことだが、見た目だけ見ればユキの方が年上だ。そして外見が年下な自分がそんな少女を正座させているという状況は、流石に色んな意味でよくないだろうとリオは近くのベンチを指差し、ユキに座るよう促した。静かにちょこんと腰を下ろしたユキの横に、どかりと座るとリオは足を組んだ。
「どうすっかな。このまま仕事してもいいんだけど…、アンタを野放しにしとくと、またなんかやらかしそうで怖いんだよね」
「返す言葉もございません…」
「とりあえず、アンタはこのベンチから動かないで、一歩も!」
今までの行いを反省してしょんぼりするユキは小さく「はい…」と返事したのを確認すると、リオは少し離れたところに移動し画面を表示させた。画面が見えないほど離れたわけではないが、ユキの知らない文字が羅列されていて物理的に読むことができない。リオはその文字を読み終えると、顎に手をあて数分考え込んだ。
「オレちょっと近くを見てくるから、アンタはここで留守番ね」
そう言うとリオは早足でどこかへ歩いて行った。公園には木がたくさんが生えていて、リオの姿はすぐ見えなくなった。
一人残されたユキは目の前にある、レンガで作られた花壇や背の高い垣根をぼーっとみつめた。太陽の光や、風に揺れる植物たちを感じていると今日起きたことが夢だったのではないかとも思えてくる。ユキはそんなことを考えながら静かに流れるのどかな時間に、目を閉じて深呼吸をした。
目の前に広がる自然を堪能したあと、ユキはリオを探すように辺りを見回した。少し見ただけだが、この公園は自然が豊かで、綺麗に掃除もされてる。しかし気になる点もあると言えばある。それは葉が地面にたくさん落ちていることもなければ、ポイ捨てされたゴミもない。ベンチもそこまでボロボロのものはないし、植物も綺麗に枝が整えられている。そう、少し綺麗すぎるような気もしたのだ。だが、自分の生活圏内しか行ったことがないユキが知らないだけで、力を入れているところはこんな感じなのかもしれないと、その疑問を宙へ放った。