五話
よく晴れたある朝、それは起こった。
「ごめんっ、無理!!」
理由も告げずそう言い放った少女/ユキは、荷物を抱えバタバタと忙しそうに部屋から出ていった。それは少女の世界に来て早々の出来事であり、脳の処理が追いついていなかった少年/リオはその場でフリーズした。
バタンという激しく閉められたドアの音でやっと我に返ると、少年は少女の後を追って階段を駆け降りた。
「ちょっと、意味が分かんないんだけど。ちゃんと説め…」
「っ今話してる時間がないの!あとでちゃんと説明するから!」
慌ただしく靴を履き素早く立ち上がると、少女はちらりとリオを見て「いってきます!」と元気よく挨拶をして出かけていった。
玄関に一人残されたリオは嵐が去った後の静けさを感じながら、自身の記憶を辿るように左上に視線を逸らした。
「…今日予定あるって言ってたっけ?」
しかし記憶を思い返しても心当たりはみつからない。リオは段々と湧き上がる怒りの感情を抑えるようにふぅーと普段より長めに息を吐くと、さっさと自分の世界へ帰っていった。
「……で、僕のところに来たってわけか」
「別に、そういう訳じゃないです」
理解不能な少女の行動を相談しようと、リオはローゼベルトの執務室を訪れていた。応接用の椅子を占拠し、足を組みながら優雅に紅茶を飲む少年をローゼベルトはくすくす笑いながら見ていた。
「それにしても、急にこんなことされちゃ困るよー、この後来客の予定があるのに」
やれやれと首を横に振りながら困った困った言うローゼベルトに、リオは飲んでいたカップをソーサーに置いた。
「来客の予定はなかったはずです」
「…もしかして、僕の予定って把握されてる?」
「勿論です。ローゼベルトさんは監視してないとすぐにサボるから、と言われているので予定は常に把握してます」
「君は僕のマネージャーか何かかな?」
「その言葉は初めて聞くのでよく分かりませんが、違います。あと、その言葉無性に腹が立つのでやめてください」
じろりと睨みつけたリオに「怖いなぁ…」とローゼベルトが言葉を溢した。すると少年からは「普段からこういう顔ですので気にしないでください」と刺すような視線と共に言葉が返ってきて、ローゼベルトは体をぶるりと震わせた。
まだまだ機嫌の直りそうにない少年を追い出すことを諦めたローゼベルトはふぅと息を吐くと、デスクに積み重なった書類に目を通しながら話を戻した。
「それはさておき、あのリオくんがフラれるなんてね〜」
「…オレの話聞いてました?」
ローゼベルトは確認し終えた書類に承認印を押していた手を止め、ゆっくりと顔を上げた。不思議そうに少年の顔をじっと見るローゼベルトに居心地の悪さの感じたのか、リオは眉間にしわを寄せ口を開いた。
「…なんですか」
「ううん、なんでもない。ちゃんと聞いてたよ。リオくんとのデートを断ってユキちゃんがどこかに行っちゃったって話でしょ?」
ローゼベルトはリオの言動に引っかかりを感じ、敢えて少年が嫌がる表現を使って理解していることを伝えた。
意地悪のように感じるローゼベルトの行為だが、それは“少年が変わってきているかもしれないという兆し”を見逃さないため…という建前が八割、残りの二割は“自分の言葉に少年はどんな反応を返してくれるのだろう”という本音からだった。そんな上司とは思えない行動をする所が後輩から慕われる反面、リオ含め一部の者からは煙たがられている。
わくわくした顔で相手の反応を待っているローゼベルトとは対照的に、リオは冷めた顔を相手に向けた。
「ローゼベルトさんの耳は他の人とは作りが違うようですね。ご心痛お察しします」
「何その重めの返し!心配しなくてもみんなと同じ耳してるよ!あと、その“何言ってるの、この人…”みたいな反応やめてっ、傷つくから!」
期待していた反応とは違い、普段通り以下の返しをされたローゼベルトは“そんな反応が欲しかったんじゃない!”と心の中で叫びながら強く握りしめた手をドンドンと打ち付け、足をバタバタとさせ机に突っ伏して泣き出した。
ここまで大袈裟な反応をするローゼベルトを面倒に思ったのか、リオは一人大合奏をしているローゼベルトを気にする素振りも見せず、紅茶の入ったカップを手に取るとティータイムを再開させた。
スランプしており更新が遅くなっています。
申し訳ありません。
ですが、この作品はしっかり完成させたいと思っているので、あたたかく見守っていただけると有難いです。
今後ともよろしくお願いいたします。




