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四話


 中々止まらない子どもの喧嘩のような言い合いに飽きたユキは、目の前に置かれたタルトをフォークで小さく切り口へ運ぶ。すると死んだ魚のような目をしていたユキの目に光が戻り、味わいながらも速いスピードで食べ始めた。


「ちょっと、なに一人で蚊帳の外(かん)出してるわけ?アンタも参加しないって言ってよ」

「え、だって…、ローゼベルトさんは“リオくん”を誘いにきたんでしょっ?」

「違う。“アンタ”を参加させようとここまで来たの」

「んグッ!?」


 タルトもあと一口で終わり…という時に衝撃的な言葉を耳にし、堪能しようとしていた最後の一口をユキは丸呑みして喉に詰まらせかけた。ゲホゲホと苦しそうに咳き込みながら胸を叩くと、隣にいたリオが呆れ顔で水を差し出した。ユキは遠慮なく受け取ると、ゴクゴクと一気に飲み干し大きく息を吐いた。


「…ッ……わたしをですかっ!?無理です無理です!」


 否定に伴いブンブンを勢い良く顔と手を振る姿を見て、リオは「ほらね」と言いたげな目でローゼベルトを見る。勝ち誇ったような雰囲気を出す少年にローゼベルトはむっとしていたが、何か閃いたのかにやにやした笑みを作った。


「別に今すぐにやるわけじゃないよ。そうだなぁ…、三、四ヶ月後くらいかなー?今回は本当に範囲が広いんだ。そりゃもう砂漠の中から一粒のダイヤを探すようなもんだよ。僕が可哀想だと思わないかい?思うだろぅ!?それにだよ、君たちも悪いんだからね!」

「何がですか」

「……ユキちゃんを僕の親戚とか言うから“広範囲探索イベントにもちろん参加するでしょ?”ってマハナくんが…」

「…やっぱ楽しんでますよね。自分で“イベント”って言っちゃってるし」


 リオはローゼベルトに冷ややかな視線を向けた。いくら上司とは言え、真面目で仕事人間なリオからしたら、仕事をイベント扱いされるのは嫌なのだろう。その雰囲気を瞬時に読み取ったローゼベルトは、コホンと咳払いをして話を逸らした。


「あぁーーー!!!もうっ、君もあの子も本当に可愛くないなぁ!と・に・か・く!これは上司である僕の決定だから、絶対参加してもらうからねっ。はいっ、この話終わり!」

「え、ちょっと!ローゼベルトさん!?」


 ローゼベルトはそう言い放つと、リオに言い返す間も与えず「解散解散!」と足早に部屋から出て行った。


「強制参加になったじゃん…どうすんの?」


 心底やりたくない仕事なのかリオは黒いオーラを出し、ローゼベルトへのストレスを八つ当たりさせるように口から言い放った。


「とりあえず、……残ったタルト食べていいっ?」


 しかし少女は事の重大さが理解できておらず、ただ目の前に残されたタルトの行方を心配をしていた。そんな呑気なユキにリオは怒りを通り越して呆れてしまった。


「聞いた俺が馬鹿だった…」


 紅茶とタルトを交互に口に運びながら幸せそうにする少女と、絶望のあまり顔を覆って下を向いてしまった少年という、なんとも言えない対照的な空間がそこには広がっていた。


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