一話
「うそでしょ……。どこここ」
「だから、オレたちの世界。つまりアンタのいた世界とは違う場所。…まぁ、一般的には“異次元”とか“異空間”とかっていうのなんじゃない?よく知らないけど」
開いた口が塞がらずフリーズした少女を横目に、リオはサラッと伝える。顎に手をあてふむふむと何かを考えていたのかと思えば「あ、“異世界”って言い方もあるか」と呑気な事を言い出し、それによって少女は現実に引き戻された。
「そ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ!!!!なにそれ異世界!?そんなものはフィクションの中だけにして!いや、アニメとか本とかはではそういうのはみたよ!みたけどさぁ、………みたけどこれはあんまりでしょ!!あり得ないってそんな話!!!!」
「よくしゃべるね」
唐突に大声で話し出した少女の横でリオは耳を塞ぎながら冷静に返す。
現在リオの中で少女は“大人しい…と見せかけての乱暴な女”から“大人しいと見せかけての乱暴でヤバい女”にランクアップを果たし、リオの中で面倒くさい人ランキング堂々の二位に突如浮上した。つまり、あまり関わりたくないのである。
そんなことを考えてぼーっとしてると、またも少女に肩を掴まれ、視界が揺れる。
「ねぇ!!!あなたマジシャンなんでしょ!?そうなんだよねぇ!!そうって言って!?どっかからてってれーって出るんだよね!?ドッキリでしたーって!」
「うるさい黙って」
頭部をガクガクと前後に揺らされたリオは限界と言わんばかりに俯き、その垂れた前髪の隙間から鋭い目つきで少女を睨んで黙らせた。
怒られた少女は大声で言うのはやめたものの現実から目を背けたい思いは変わらない。これ以上迷惑をかけないようにと、部屋の隅にふらふら移動してぶつぶつと何かを言い続けた。
「まぁ、わかるけどさ。一旦落ち着いたら?」
そう言ってリオは指をパチンと鳴らす。すると何もなかった部屋にローテーブルが出現する。———そう文字通り出現したのだ。
それを見た少女は一周回って冷静さを取り戻した。それは、“苦手な絶叫系に乗った時、叫び声をあげたが周りの人のが自分より怖がっていてスン…と妙に冷静になる感覚に似ている……”と少女はのちに語った。
怒らせてしまった相手をまた苛つかせないよう、少女はおずおずと動いた。
ローテーブルのどこに座るか少し悩んだが、知らない世界、おまけに先ほど苛つかせてしまった相手だ。色々考えて、斜め向かいに着席する。
リオがまた指を弾くとテーブルの上にカップとソーサー、ポットが出てきてカップに赤みが強い橙色の、紅茶のようなものが注がれる。
少女は一瞬毒の心配をしたが、そんな少女の心配を他所に、リオは綺麗な所作でカップに口をつけた。
(絵になるなぁ……)
そんなことを考えながらリオを見ていた少女だが、緊張からなのか一気に喋りすぎたからなのか喉の渇きに気付いて、カップに口をつける。
———ゴクリ
「…甘くておいしい」
普段こういったものを飲まず、お徳用と表記されたものやスティックタイプのものを飲むような素人の少女でも、これが高いものであるとすぐにわかった。
「…落ち着いた?」
「う、うん」
テーブルに肘をつきながらこちらを見るリオの仕草はまたも絵になるもので、少女は吃りながら返事をした。
少女はコホンと咳払いをし、もう一度カップを口に運ぶ。
「…テーブルに肘をつくのは行儀が悪いんだよ」
「……………うぜぇ」