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三話

*修正箇所があります。

 後半のリオの仕事部屋に来てからの文章が少し追加になっております。


 翌日。リオがいつ来てもいいようにと、ユキは言われた通り自宅で過ごすことにした。とは言いつつも、昨日購入したゲームを遊ばずに眠ってしまったため元々外出する気はなく、朝食を済ませるとすぐにゲームを始めた。


 ユキはコントローラーのボタンをぽちぽちと押しながら画面に見入り、ぽつりと呟いた。


「うわぁ〜…この人カッコい〜…。こんなセリフ言われてみた〜い。…そう言えば、リオくんたちは本がメインみたいだけど、ゲームの導き手もいるのかな…」

「さあ?あるかもしれないけど、知ってるのはランクが上の人達くらいじゃない?それにオレは、他の仕事なんて興味ないから」

「っ!?……おっ、お願いだから、次から背後に立たないでくれる…?」

「?なんで」

「…っ心臓に悪いからっ!!」


 今までで一番の大声にリオは両耳を押さえたが、突然のことに反応が遅れて耳をキーンとさせる。


「うるさい」

「そっ、それはリオくんが脅かすから!」

「これ、貰ってきたよ」


 “これ”を確認する前にユキは左手を掴まれ、ブレスレット型の通信機器を通される。有無を言わさず手首につけられたそれは、細い腕時計のような形であった。しかしバックルのようなものは存在せず、軽い力で伸縮し手首に通すとその人に合った長さに調節されるようで、締めすぎて痛いということも落ちることもなさそうだ。


「おぉーっ!…これがあの魔法道具…!!」

「大体の設定はしといたよ。アンタじゃ不安だからね」

「ねぇねぇっ!これ何ができるのっ?」


 目をキラキラと輝かせるユキの姿を見て、リオは面倒臭そうにジトっとした目で見返す。


「アンタが出来るのは、言語翻訳、オレへの連絡、そして…位置情報、かな?最後のが一番重要。アンタがどこにいるのかがオレに共有される」

「…。それもう子ども用携帯じゃん……」

「仕方ないじゃん。そうでもしないと野放しの動物みたいにフラフラしてトラブル背負ってくるんだから。こっちだって迷惑なの」

「扱いが人間でもなかった…っ!!」


 待ち望んでいた魔法道具が、子供用携帯と化していた絶望は計り知れない。さらに見た目が自分より年下の人からそんなものを渡されたのだからさらにショックは大きいだろう。


 魂の抜けたような死んだ目で天井を見つめるユキを無視してリオは話し出す。


「ねぇ、渡すもの渡したし、そろそろ仕事に行っていい?」

「どうぞ…。わたしは、おいしいものでも食べて傷ついた心を癒すよ…。あぁ、可哀想なわたし…、可哀想な魔法道具…」

「…何ブツブツ言ってんの?アンタも来るんだよ」


 グイッと腕を掴まれ、強制的に鏡まで歩かされる。鏡の前に着いても中に入ろうとしないユキを見て、リオははぁ…と溜め息をつき、背中を軽く押す。またもよろけるようにして前に踏み出した足は鏡を超えて、リオの世界へと迎えられる。




 リオの仕事部屋に来たはいいが、少しの問題が発生していた。それは部屋の片隅でしょんぼりしているユキが全く動こうとしないことだ。そんな状況にリオは呆れながらも声をかけた。


「ほら、いい加減しっかりしてくんない?仕事だよ」

「だってぇ……」

「…アンタが仕事出来るようになったら、機能増やせるよ」


 いつまでもいじけているユキに向かってぽそりと落とされた言葉を、少女は“待っていました!”と言いたげに体をピクリと反応させた。


「………本当?」

「あ、あぁ……。まぁ、アンタの頑張り次第だけど…」


 ゆらりと立ち上がったユキに若干引きながら答えたリオは次の瞬間、目をギラリと怪しく光らせた少女に間合いを詰められ両手をぎゅっと握られた。


「っやります!やらせて下さいっ!今すぐ!!」

「…ホント単純すぎ」


 何はともあれ仕事への参加意欲が出たことは良いことだと、リオは仕事する準備をし始めた。ユキを迎えに行く前にどのストーリアにするのか(あらかじ)め決めていたリオは、服装を整えるだけですぐに仕事ができる状態だった。ネクタイを結びながらリオは何かを思い出し、室内にある白いワードローブに近付いて引き出しを開ける。


「なに?これ」

「仕事用の服だよ。勤務中は基本この服で過ごすことになるから、こっち来たらすぐ着替えて。異世界人ってバレないためにも」

「分かった、けど、……これ借りていいの?リオくん、服の替えある?」


 リオから渡された白い洋服を受け取りつつ、心配そうな顔で尋ねる。


「それは研修生用のやつで、こっちはオーダーメイド。だから心配しなくていいよ」

「なるほどっ?…なんかスゴいね!」

「アンタ、分かってないでしょ。…まぁいいけど。とりあえずオレは外に出てるから、その間に着替えてよ」


 マントを翻しながらくるりと背を向け扉まで歩き出したリオに向かって、ユキは慌てて声をかけた。


「あ、大丈夫大丈夫!違う方向いててくれれば平気だから」

「………は?」


 へらっと笑って部屋の奥側に歩いていくユキを、リオは信じられないと言いたそうな顔で見る。


「いや…オレ、男だけど……?」

「ん〜?そうだねぇ〜男の子だねぇ〜。明日からなんか対策するよ〜」

「…危機感なさすぎでしょ」


 リオの心配を余所に、ユキはテキパキと着替えを始めた。ズキズキと痛む頭を抑えながらも少年は帽子を被り、準備を完了させた。数分後にユキも支度を整え、リオの方へやってくる。異世界の服だが意外にもすぐに着こなせたようだ。


「ん。いいんじゃない?…全身白だけど。準備はいい?」

「……うん!」

「じゃあ、勤務開始」


 そう言ってリオは前のように何かを呟き、静かに扉を開けた。


*ワードローブとは

 衣装を収納するための家具のことです。

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