三話
ユキは玄関に鍵を刺し家の中に入るなり、ふぅと大きく息を吐いた。悩みの種を増やしまくったために、色々心配した叔父にあれはどうだこれはどうだと質問攻めされたためである。しかしそれは自分が心配させるようなことを言ってしまったからだという自業自得の結果に、言い返すようなことはできなかった。
「まぁ、気にかけてくれてるってことだし、ありがたいことだけど、おじさんは心配しすぎだよねぇー……」
もう一度息を吐いてから靴を脱いで上がると其の足でキッチンに向かい麦茶を一杯飲み干す。乾燥していた喉が一気に潤い、テーブルに置いてある購入したゲームを見ると気持ちも回復した。早速ゲームをやろうとうきうきした気分で自室に向かい、ドアを開ける。
「遅い。一体何やってたわけ?」
ドアが開くとともに不機嫌さが最高潮のリオがローテーブルに肘をつきながら、こちらを睨んでいた。
「リオくんこそ、今度はどーしたの?」
「オレはアンタを仕事に連行しようと来たの。それなのにいつになっても来ないし、お陰で今日の勤務時間終わっちゃったよ」
フンとユキがいない方に顔を向ける。特にこの時間に来ると約束したわけでもなく、押しかけて来ているため納得がいかない部分もあるが、自分のために協力しようとしてくれていると思うと怒るわけにもいかない。複雑な気持ちを抱きつつ、ユキは一度部屋から出ていき一階へ向かう。
自室に戻ってもその気まずい雰囲気が変わるわけもなく、ユキはお詫びにとリオの前におずおずとお菓子を差し出した。リオはそれを指先で摘み、口に運ぶ。
「………おいしい。何これ」
「チョコレートだよ。リオくんの世界にはないの?」
「オレの知ってる限りではない。ローゼベルトさんなら、知ってるかもしれないけど」
ふーんと答え、ユキもチョコを口に運ぶ。体がこの甘さを求めていたのだと知り、幸せな気分に包まれる。美味しいお菓子にリオの機嫌が少し直ったのを察知して話しかける。
「…リオくん、今日はごめんね。わたしのために協力してくれようとしてるのに」
「別にいいよ、また連行しに来ればいいことだから」
「そのことなんだけど、やっぱり連絡手段がないと、またこういうことが起きると思うんだよね。何かいい方法ないかな?」
ユキの世界には通話やメール、メッセージアプリなど連絡を取れる手段が沢山存在する。しかしリオに関してはまず異世界の人という問題点があり連絡方法がないのだ。うーんと考え込むユキを見て、リオは丸くした目をぱちくりとした後、飲んでいた麦茶をテーブルに置いて話し出した。
「…そんなの簡単だけど」
「えっ?」
「“これ”を作ればいいんだよ。そうすれば連絡取れる」
そう言ってリオは手首につけていたものを見せる。
「ブレスレット…?」
「…型の魔法道具。アンタのそれと同じ通信機器。今度ローゼベルトさんに貰ってくるよ」
「ありがとー!…あ、でもそっちの文字読めないから、わたし使えないんじゃない?」
「言語翻訳の魔法がかかってるから大丈夫だと思う。オレたちは仕事上、いろんな文字も読むから」
「すんごいハイテク!!」
言語翻訳が可能ということは他にも便利な機能があるのではないかと、ユキは期待するように目をキラキラさせながら本物が自身の元へ届くのを楽しみにした。何と言っても漫画やアニメ、ゲーム好きには魔法道具という点が、ユキ曰くポイントが高いらしい。
「あ、今何時?これにアンタのところの時刻、登録しとけば時間読みやすいから」
そう言って通信機器に触れて、設定を始める。設定画面が道具そのものに表示されるのではなく、目の前に画面が出るあたり、魔法の存在する世界のものだと改めて感じさせる。
「じゃあ帰るよ」
「…この後行くのかと思った」
「流石に時間外まで仕事する気はないよ。………それにアンタはトラブル持ってくるから勤務時間内のがいいの」
そう言って立ち上がり鏡に近づく。
「あ。明日また来るからなるべく家に居てよね」
「りょ、了解しました!」
返事を聞いた後、サッと鏡の中へ入って帰っていった。自分の用事が終わるとさっさと帰る少年の姿にユキは苦笑いするのであった。