二話
リオの後に続き歩いていると、あるドアの前で立ち止まった。
《コンコンコン》
ノックをすると「どうぞ」と男性の声で返答が来る。ドアを開け中に入って行くリオに続き、「失礼します」と声をかけてからユキも中に入ると、社長が使っていそうな立派なデスクに男性が一人座っていた。ローゼベルトだ。
「おはよ〜、二人とも。え〜っと、あなたが、ユキちゃんかな?こんな朝からごめんねぇ〜。でも話は早い方がリオちゃんもお仕事に集中できるしいいかな〜って!…それに昨日急にお仕事振っちゃったから今日はちょ〜っとお仕事サボってもオーケーよっ」
部屋に入るなりバズーカの如く話し出すローゼベルトに、ペースを持っていかれる。リオは「ローゼベルトさん」と声を掛けようとすると相手から無言の圧力をくらい、コホンを咳払いをして言葉を発する。
「ロー……ザさん、話を進めましょう。オレは早く仕事がしたいので」
「そ〜なの?リオちゃんてばホントに社畜ねぇ〜〜!まぁ、いいわ。そうだ!紅茶でも淹れる?あ、お菓子もあるわよ〜?ワタシのおすすめは〜、レモ…ぐはぁッ!!!!!」
突如ヒラヒラと優雅に舞っていた蝶から見事な攻撃を受けた声の主は、呻き声を上げると同時に綺麗な半円を描きながら宙を舞い、地面にごろごろと回転しながら着地した。
「ぅえーーーーッ!?だ、大丈夫ですかっ!?」
またも非日常的な光景に目玉が取れそうなほど驚くユキの横で、冷静なリオは勝手に紅茶を入れ、飲んでいた。その様子を見て、いつものことなのだと察したが、驚かずにはいられない。心配になるし、とりあえず痛そうだな、とユキはおろおろすることしかできなかった。
「気にしなくて良いよ、いつもこんな感じだから。ロー…ザさんはいつも話が脱線しすぎるから、監視つけられてんの」
本当に気にしていないのかリオはローゼベルトに視線を向けることはなく、心配しているユキを椅子に座るよう促した。
「ひっど〜いっ、少しは心配してよ〜!というか一撃が重くない!?何!?今日は当たりが強い日なの!?嫌なことでもあったの!?ワタシ何かの捌け口にされてない!?ワタシのこの最高級に美しい顔がこんなボロボロよ〜!この顔を傷つけるなんて罪よ、罪!あぁ、ワタシはこれからどうやって生きていけばいいの?…………ま、治癒の魔法ですぐ戻るけどっ」
ヒラヒラと優雅に舞う蝶に向かって文句を言った後、ローゼベルトは一人で大袈裟な芝居を勝手に開始し勝手に終了させた。それを一名だけ除いてみんな無視をする。これもまた日常的なのだろう。
文句を言われた蝶がまたローゼベルトに寄って行ったため、何か攻撃を繰り出そうとしていると本能的に感じたのか、男性は慌ててコホンと咳払いすると表情を、頼れる上司…のような顔に戻した。
「…じゃあとりあえず、報告を受けようかな」
男性がそう発すると、今まで完全無視をして紅茶を楽しんでいたリオはカップを置き、「はい」と返事を返した。