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二話


「ごちそうさまでした…」

「お粗末様。口にあったみたいで」


 食後に出された紅茶に口をつけ、ほっと一息つきながら会話をする。ユキはカチャリとソーサーにカップを置くと、顔を上げた。


「それにしてもリオくん料理上手なんだね、なんか意外」

「まぁ、料理は嫌いじゃないし」

「そうなんだ。わたしあんまり上手くないから尊敬するよ!いつから料理始めたの?」

「よく覚えてないけど、小さい頃からやってた…、と思う」


 今までズバズバ言っていたリオが、珍しく歯切れが悪そうに答える。


「へぇ。…そう言えば、わたしすごいくつろいでるけど大丈夫かな?家族の人いつ帰ってくるの?」

「…さぁ?オレ、昔の記憶ないからそこらへん分かんない。だから誰も帰ってこないし安心して寛いでていいよ」


 あまり踏み込んで欲しくない話題のようで、今までとは少し違い、糸がピンと張ったような雰囲気になった。これ以上は聞くな、と線引きをされたような気がして、微妙な雰囲気が漂う。


「…そうだっ、食器洗うよ!お世話になってるし、そのお礼に。わたし食器洗いなら完璧だから、任せて!」


 ユキは明るくそう言ってキッチンへ向かったが、使い方が分からず立ち尽くす。そんなユキを見て、リオはふぅと一つ溜め息を吐くと、使い方を口で伝えた。


 リオはユキが洗い物を始めたのを確認するとソファに座り、近くにあった読みかけの本を手に取り静かに読み始める。その空間にはカチャカチャという食器の触れる音と紙を捲る音だけが響いていた。




「…よし。これで完了っと!」


 リオは先程から読んでいる本から顔を上げずに「どーも」と一言お礼を伝える。


 ユキは洗い物を終えたという謎の達成感に浸りながらリオに目をやる。本を読んでいるだけなのにまたも絵になるな…と相手を凝視する。


 それが外見のせいなのか雰囲気のせいなのか。リオの場合顔が整っていて、一つ一つの動作が綺麗だという点がこう思わせるのだろう。


 しかし顔が整っているというのはそれだけで近寄り難い存在だが、リオはそこにキツめの物言いが足されるため、近寄り難さが一層増す。だからこそ一歩引いた位置から対象を見る“絵”という表現がぴったりなのかもしれない。


「何見てんの?」


 思いの外長く相手を見ていたのか、視線に気付いたリオは急に声を発した。少年は声をかけた割にユキにあまり興味がないのか、相手を見ようともせずページをぺらりと捲る。


「あ…いや、なんか………、絵になるなぁ…って。さっきもそうだったけど、なんか一つ一つの動きが綺麗っていうか…」

「…そ。普通にやってるだけだけどね」

「もしかしたら、前はお金持ちの家の子だったとか……」


《バン!》


 リオは勢いよく持っていた本を閉じ、その音にユキは肩をビクつかせた。


「………もう寝ようか。アンタも今日は色々あって疲れたでしょ。ベッドはアンタが使っていいから」

「…リオくんは?」

「オレはソファ使うから平気」


 そう言うとリオはユキに背中を向けてベッドの方へ歩き始める。近くまで行くと手を向け、呪文を唱えると音を立てながら衝立(ついたて)が現れる。


 リオの家はどこにいてもほぼ部屋全体を見渡せる造りであり、つまり仕切りがない。少女に背を向けたまま「このままだと落ち着かないでしょ」と少し気を遣って壁を作ってくれたのだ。


 ユキは「ありがとう」と小さく言って、有り難くベッドを使わせてもらうことにした。


 ベッドに潜ると衝立の向こうからももぞもぞと布団の擦れる音が聞こえてくる。


「…怒った?」

「別に。ただ、詮索されたくないだけ」


 聞こえてきた言葉で衝立の奥に厚く高い壁ができたような気がした。だが明日でおさらばするであろう自分が首を突っ込むのもおかしな話しだ、とユキはこの話から話題を切り替えることにした。


「ねぇ…、さっきの扉の中ってさ」

「…まだ話すのかよ」

「“あそこ”って日本のどこだったの?すごい綺麗な公園だったけど」

「日本ごよく分からないけど、詳しくは明日話せると思う」


 だからさっさと眠りなという風に言葉を続けると、少年はさっさと眠りについた。その速さはあの国民的アニメの眼鏡の小学生のような、爆速な入眠であった。

 

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